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【ギャラクシー賞テレビ部門12月度月間賞】-「GALAC」2020年3月号

「全力 ! 脱力タイムズ」
11月29日放送/23:00~23:40/フジテレビジョン

コント番組を作ることが難しいと言われている時代に、くりぃむしちゅーの有田哲平が、ニュースキャスター「アリタ」に扮した「報道番組」の設定で、全編にわたって精緻に作り込んだ笑いに挑戦している稀有な番組だ。ゲストの芸人が何時間もかけて打ち合わせした本題は一向に始まらず、「全力解説員」と呼ばれる専門家たちが「○○といえば……」とまったく関係のないものを長々と解説したり、著作権の関係で映像を加工していると前置きし流れたVTRでは大御所タレントをものまね芸人が演じていたり、インタビューを切り貼りし、あたかもフジテレビを痛烈に批判したように編集したりと、挟まれるVTRも含め全編ボケ。
それに出演者のなかでただひとり何も知らされていない芸人が必死にツッコんでいく。ひたすらバカバカしいが、そのなかにテレビ的な演出や報道の切り取り方、やらせ問題やコンプライアンス、ハラスメントへの過剰な配慮など、メディアに蔓延る諸問題を批評的に皮肉っていたりもする。悪ふざけと裏切りの連続で予測不能。芸人はルールが壊され追いつめられていく。唯一無二のドキュメンタリーコントといえるだろう。
この回のゲストは柴田英嗣。彼らのコンビ「アンタッチャブル」は、柴田が問題を起こし休業した約10年前から事実上の活動休止状態。お笑いファンの間で復活が待望されていた。柴田は以前から番組にゲスト出演し、そのたびにアリタから「最後に、アンタッチャブルに漫才をやってもらいましょう」と振られ、バービーやコウメ太夫など偽の相方が呼び込まれ困惑するというのが定番となっていた。この日も最初は、相方の山崎弘也に似ている俳優の小手伸也が登場。それで終わると思っていた矢先、本当に山崎が登場するのだ。ずっと「フェイク」をやり続けたこの番組自体の歴史が振りになったサプライズ。それを事前告知まったくなしに行ったのも粋だった。彼らが売れていない若手時代から強い絆があった有田の番組だからこそ実現したであろう復活に、彼らのリアルな感情が溢れ出ていた。(戸部田 誠)

「俺の話は長い」
10月12日~12月14日放送/22:00~22:54/日本テレビ放送網 オフィスクレッシェンド

屁理屈を武器に実家に居座る31歳ニートと、自宅リフォームで転がり込んできた姉一家。3カ月限定の共同生活が、手詰まりだったそれぞれの人生を動かしていく。会話劇に定評がある金子茂樹が30分×2本立ての挑戦で描いたホームドラマの快作だ。
同居初日のすき焼き論争で個々のキャラクターを描き分けた1話があざやか。「肉の食べ方として間違っている」という満(生田斗真)の屁理屈体質と、一歩も引かない姉、綾子(小池栄子)。2択の修羅場に笑わされ、「すき焼きを肉料理に分類している時点で浅い」という姪っ子、清原果耶の登場でさらに笑った。「私が悪い」と三崎千恵子風に立ち回る原田美枝子、しみじみと発言権が低い安田顕。食べ物ひとつでケンカになる寅さん的な導入に俳優陣の力量がにじむ。
夢だったコーヒー店を潰して以来6年間働いていない満。ハローワークには行きたくないが、学校に行きたくない姪っ子にはあれこれ言う。コーヒー道具への未練は断ち切ったが、ベースギターに未練がある義兄のことは応援したい。人物のちょっとした接点が手をつなげ、誰かの一歩になる。会話ありきのホームドラマ、アナログコミュニケーションならではの力だ。
「なんで人生の大事なことに限って誰も教えてくれないんだろう」。素直じゃないおじさんと姪っ子との夜の海は、みずみずしい名場面だった。結局片づけた段ボール、借りてくれたDVD、まさかのロールキャベツ。雄弁に語る小道具だけパッと見せて、感動を深追いしない各話のラストも、小ざっぱりとして粋だ。
満が採用面接へ向かう最終回。新しい世界へ、荒川の橋を一歩ずつ渡っていく。町内会バンドのたどたどしい『ロッキーのテーマ』と、土手から見上げて晴れ晴れと泣く姉の大声援。「ヒジが下がってる!」「あごを引いて!」。中3のソフトボール大会での姉弟の姿が、生き生きと回収された。
ホームドラマの復権を掲げたプロデューサーの志を、書ける作家とベストな役者が形にした。ONE TEAMで描いた令和の家族だった。(梅田恵子)

大河ドラマ
「いだてん~東京オリムピック噺~」
1月6日~12月15日放送/20:00~20:45/日本放送協会

明治・大正のオリンピック黎明期と、東京での開催を目指す昭和。2つの時代を行き来しながら、どのように日本に「スポーツ」が根づいていったか。そして「オリンピック」が、いかに政治や国際情勢に翻弄されながらも多くの人々の志によって引き継がれてきたのか。本作はその物語を最後までぶれない視点で描き切っていた。
日本初のオリンピック選手・金栗四三(中村勘九郎)と、1964年の東京オリンピック招致の立役者・田畑政治(阿部サダヲ)の二人が一応の主人公に据えられてはいたが、本作は徹頭徹尾、“人々”の物語だ。古今亭志ん生(ビートたけし/森山未來)や嘉納治五郎(役所広司)ら名の知れた人物だけでなく、亡き父の残した絵葉書をきっかけに志ん生に弟子入りする五りん(神木隆之介)とその家族、女でも陸上競技をやりたいという希望を持ち続けたシマ(杉咲花)や人見絹枝(菅原小春)ら女子スポーツ選手たち。さらにベルリンオリンピックのマラソンで「日本代表」としてメダルを獲った朝鮮出身の孫基禎と南昇竜や、政治にふりまわされて64年の東京五輪に出場できなかったインドネシア選手団といった、歴史の波に揉まれた人々をきちんとすくいあげる。まるで数々の小さな支流が合流して大きな流れを作るような、そんな見事な“大河”ドラマだった。
取材チームのインタビューによれば、当時の資料や日記などを徹底して読み込み、そこから物語を作り上げていったという。過去のオリンピックや学徒出陣などの資料映像をドラマに馴染ませた演出も巧く、近代史の学び直しとしても見応えがあった。
時代が行き来してわかりにくいという意見も聞く。しかし、それは作り手側だけの弱点なのか、視聴者側のドラマを受け止める力のひ弱さにも原因はないだろうか。そんなモヤモヤした気持ちも、高らかなファンファーレで始まり、スッスッハッハッのリズムで奏でられるテーマ曲を聞けば、頭から吹っ飛んでしまう。記録ではなく記憶に残る一作だ。(岩根彰子)

BS1スペシャル
「証言ドキュメント 天安門事件30年」
12月21日放送/20:00~21:50/日本放送協会

2019年6月9日放送のNHKスペシャル「天安門事件 運命を決めた50日」(50分)では、当時の総書記趙紫陽の肉声テープ、その秘書で中央委員だった鮑彤始め、学生、人民解放軍、息子を失った親、巻き添えで負傷した市民など天安門事件にあらゆる立場で関わった人々の証言と、在中国イギリス大使館が独自収集した資料、香港に流出した当時の国務院総理李鵬の日記などから、趙紫陽の前任者である胡耀邦の追悼集会がなぜ天安門事件に発展したのかを追った。最後に当時のブッシュ米大統領が鄧小平に送った書簡を紹介し、国際社会の経済優先時代の問題も示した。
本110分版は香港のデモから始まり、「自由と民主主義を求める若者の声」を天安門事件の導入にする。胡耀邦追悼集会から「動乱」とした人民日報の社説の間にあった、党宣伝部による「世界経済導報」の胡輝邦追悼記事の強制削除も取り上げ、学生の思いが追悼・改革継続から憲法順守・民主化要求に向かう流れを丁寧に拾う。50分版ではやむなく割愛したのであろう証言も加え、天安門事件に至る過程の各段階を、政府・党、学生リーダー、学生、学生を支えた知識人、人民解放軍の将兵がどう考え、どう動いたのかを描くことで多様な当事者の姿が明確になり、事象の整理を脱して、その向こうにいる人々が見ていた現実が立ち上がった。最後に香港のデモの映像に戻り、天安門事件を繰り返していいのかという問いが暗示され、天安門事件が、決して過去完了形ではないことを示した。
中華人民共和国建国から40年後に起きた天安門事件。それから30年、中国では政治的動乱として事件を過去に葬り、今では天安門事件を意図的に忘却した人々と、事件自体を知らない人々が多勢を占める。すでに世界的に大きな影響力をもつようになった中国を理解するうえで、その起点ともいうべきこの事件を「知る」ことは中国人か否かにかかわらず重要だろう。今思えばダイジェスト版だった50分版に留めず、110分版を制作した意義の大きさ、NHKならではの力を感じた。(細井尚子)

★「GALAC」2020年3月号掲載