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【海外メディア最新事情】-「GALAC」2020年3月号

Vienna
西欧で4Kテレビがバカ売れ
高画質配信サービスの行く末

ジャーナリスト
稲木せつ子

ネット主導の4K人気

日本では昨年、民放キー局系BSの4Kチャンネルが揃い高画質放送元年となったが、ドイツでは地デジ放送がようやく全地域でSD放送からHDに切り替わったばかりだ。実のところ、EU圏内はイギリスを含め、まだSD放送を続けている国が少なくない。ところが家電ショップに行くとずらりと並んでいるのは4Kテレビ。昨年の市場調査(*1)では、2018年までに西欧で販売された受像機の63%が4Kテレビだった。これは4K・8K放送をしている日本を凌ぐ勢いだが、彼らは4Kテレビで何を視聴しているのか?
放送局による4K放送は、ほとんどがスポーツ中継だ。欧州で最初の4K放送を行ったのは、イギリス有料チャンネルのBTスポーツ。3年前から4Kスポーツチャンネルを立ち上げ、プレミアリーグの試合などを放送している。
どの国も熱心なのはペイテレビで、公共放送や民放が既存の放送インフラを4Kにアップグレードする動きはまだない。ドイツでは、民放RTLが有料衛星やIPTVで4Kチャンネルを始めたが、その実態はF1レースとドラマシリーズ1作品のみが4Kで、残りはHDだ。追随したライバル民放グループの戦略も、複数チャンネルの人気番組を4Kで制作し、1チャンネルに束ねて有料衛星で提供するというものだ。18年のサッカーW杯でも、公共放送はSDとHDで生中継、有料衛星のスカイ(独)が同じ試合を4Kで放送している。
有料テレビ以上に放送と4Kテレビとのギャップを埋めているのは、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスで、高額予算で作られたオリジナル4Kドラマやドキュメンタリーがお茶の間の4Kテレビで視聴されている。ユーチューブはそれ以前から4Kコンテンツをラインアップしており、欧州では「高画質コンテンツはストリーミングで見るもの」とのイメージが定着しつつある。
4Kコンテンツで放送局との差別化や市場シェアの拡大を狙う配信会社に対抗し、欧州の放送局も昨年から4Kの配信サービスに力を入れはじめた。英BBCは、6月から正式に4K対応をしたiPlayer(番組視聴アプリ)上で自然ドキュメンタリーなどの4K番組を提供している。同様に、ドイツのZDFも人気ドラマを4Kで制作し、HDで放送した後に、自局のオンデマンドアプリで4K版を配信している。
来る東京2020の中継では、欧州内の放送権を獲得したユーロスポーツ(ディスカバリー社傘下)が、HD放送と並行して、専用アプリで全試合を4Kでライブストリーミングする予定だ。

欧州見本市での話題は「8K」

4Kサービスが盛り上がりを見せるなか、昨年秋に欧州で開催された2つの見本市で注目されたのは「8K」だった。9月にアムステルダムで開かれた欧州最大の放送技術見本市(IBC)では、8Kカメラや対応機器などの展示に加えイギリス勢(BTスポーツなど)がラグビーの8K生中継を展示会場で披露した。またオランダ勢は、米ハーモニック社の動画圧縮技術(AI技術活用)を使って8Kのライブ配信をデモしている。
その1カ月後、仏・カンヌでの世界最大級の動画コンテンツ見本市(MIPCOM)では、NHKの協力で初めて「8Kシアター」が特設され、世界中のバイヤーに注目された。筆者はこれまでも見本市で8K映像を見てきた。画像の鮮明さに感心しながらも、どこか心に響いていなかったのだが、今回、認識を新たにした。
感動を覚えたのは日本の8Kドラマ2作品(*2)で、大画面(248インチ、音声22・2チャンネル)に映し出される映像には、奥行きだけでなく手が届きそうなリアル感があった。
ゆらめく炎の映像に欧米メディアは「焦げる匂いがした」と称賛した。作品も素晴らしいが画面に引き込まれたと語ったのはロシアのバイヤーで、誰にもわかる明確な「違い」がある。
8Kの良作を見てしまうと、4Kは当座の技術に見えるから恐ろしい。ハリウッドのスタジオでは『マイ・フェア・レディ』など過去の名画をフィルムから8Kにリマスターしており、一部で新作映画の制作を8Kで始めているところもある。
しかし、業界内には4Kへの投資が回収される前に注目が8Kに移ることを嫌う向きもあり、欧州のお茶の間で8K動画が見られるまでには時間がかかりそうだ。欧州ベースの配信会社、Rakuten TVは昨年8K動画を年末までに提供すると発表したが、足踏み状態である。近い将来期待されているのはNetflixなど配信サービスの8K導入で、見本市では次世代通信5Gのインフラが整ってくれば、8Kの配信サービスが進むだろうということだった。
日本でもまだ8Kテレビの売り上げは少なく、誰もが家庭でオリンピック・パラリンピックの8K中継を見られるわけではない。だが、選択肢があることが羨ましい。カンヌで上映されたドラマは8K、4K、HD版で販売されており、商品としては放送後の賞味期限が長い。海外販売に携わる皆さんも、今年は8Kに取り組まれてはどうだろうか?

*1 グローバル市場調査会社、IHSマークイット調べ「テレビの全出荷台数に占める4Kテレビの割合」より。それによると日本は47%。
*2 NHK制作の「浮世の画家」(渡辺謙主演)と日本映画放送制作の時代劇「帰郷」(仲代達矢主演)が全編上映された。

~著者プロフィール~
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情等について発信している。

★「GALAC」2020年3月号掲載