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【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年4月号

取り扱い注意の「内科医」「がん」
「アライブ がん専門医のカルテ」(フジテレビ)

木村隆志

「医療ドラマばっかりだね」。今冬、何人から言われただろうか。おっしゃる通りであり、苦笑いを返すだけだったが、作品ごとに「違いを生み出そう」という努力の跡が見えるのも事実。なかでも当作は、最も静かな世界観の作品ながら、最も挑戦的な作品なのかもしれない。

医療ドラマと言えばその大半は、破天荒なスーパー外科医か、真摯な救命救急医の活躍を描いたものだが、当作の主人公は腫瘍内科医。内科であるうえに腫瘍専門だから、医療シーンはおのずと重苦しく、地味になる。さらに、一刻を争う患者や難易度の高い手術がないから、わかりやすいピンチも奇跡の生還もほとんど見られない。しかも原作のないオリジナル。つまり、「そのコンセプトで大丈夫なのか?」と企画段階で落とされそうな作品だっただけに、放送前から不安視する声が飛び交っていた。

はたしてドラマが始まってみると、患者の病だけでなく、人生に寄り添おうとする腫瘍内科医の姿は静かな感動を誘うし、会話や治療の一つひとつが取材に基づいたものであることが伝わってきた。実際、知人の医師2人に同作の感想を聞いたら「リアリティは高い」と言っていたが、これは裏を返せば「視聴者が医療ドキュメンタリーのようなシビアさを感じる」ということ。例えばがんに限らず闘病中の人は、辛くて見ていられないのではないか。

そんな「丁寧に作っているからこそドラマ性が薄れてしまう」という不安があったからか、がん患者のエピソードに加えて、主人公と彼女を支える消化器外科医の因縁が描かれている。ただ結果的にこの因縁が、がんを取り巻く重苦しさを倍増させ、視聴者を遠ざけてしまった。主人公に重苦しい過去を背負わせることが定番化されて久しいが、視聴者にウケているケースは稀。むしろ見透かされている感もあるだけに、そろそろ止めどきなのではないか。

年間約100万人が新たに診断され、生涯で2人に1人がかかるというがんが、関心事であることに異論の余地はないだろう。とはいえ、毎週さまざまながん患者を描き、終末期医療を含む作品である以上、視聴ターゲットは50代以上になる。「仕事から帰宅後の20~30代に見てもらおう」というのはさすがに難しいだろう。だからこそ当作が「『科捜研の女』『駐在刑事』のような20時台だったら、もう少し多くの人々に見てもらえたのでは?」と感じてしまった。もっと言えばシリーズ化できるかもしれない。枠がなければ作ればいいだけのこと。それくらいの視聴者ファーストが求められている。

~著者のつぶやき~
腫瘍内科のメンバーはとにかく優しい。ただそれでも「もっと優しく」と思っている視聴者は少なくないだろう。好きなものを選んで見られる時代だけに、救いや癒しを明確に提示できないドラマは真っ先に排除される。

★「GALAC」2020年4月号掲載