オリジナルコンテンツ

【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年8月号

スピードで完敗し、質と尺は微妙
「各局のリモートドラマ」

木村隆志

原稿を書いている時点では、まだ何ひとつ延期されたドラマの放送が始まっていない。唯一、朝ドラ「エール」は放送されているが、中断するのがわかっているため、できれば避けたいところだ。そこで書こうと思ったのが、各局で五月雨式に放送されているリモートドラマ。局によってはテレワークドラマ、ソーシャルディスタンスドラマなんて呼び方もあるが、「スタッフとキャストが会わずに制作する」というコンセプトも、作品としての形にも差はない。
NHKは柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生ら豪華キャストを揃えた「今だから、新作ドラマ作ってみました」を皮切りに、松下洸平と桜庭ななみが間違い電話で出会う「ホーム・ノット・アローン」、広瀬アリス・すず姉妹、永山瑛太・絢斗兄弟、中尾明慶・仲里依紗夫妻らが出演した「Living」を放送。脚本を森下佳子や坂元裕二が手がけるなどスタッフの顔ぶれも贅沢だった。民放ではテレビ朝日が「家政夫のミタゾノ」「警視庁・捜査一課長」にリモート撮影を採り入れ、フジも林遣都が一人3役に挑んだ「世界は3でできている」を制作。そのほかでも日テレがスマホアプリで「宇宙同窓会」を配信するなど、さまざまな動きが見られた。
しかし、最高峰のキャストとスタッフを揃えたにもかかわらず放送時間は大半が深夜帯であり、自信のなさが見える。「再放送ドラマのほうが結果を出せる」とみなされていたことは明白だった。新たな試みを称える声もあるが、それは「テレビの世界では」という狭い視野によるものであり時代錯誤。事実、ネット上にはリモートドラマがあふれ、しかもテレビより1カ月以上早い時期から配信されていた。「沈みがちな気分を新作で癒したい」という思いは理解できるが、時間がかかればリモートドラマの鮮度も必然性も半減する。よほどクオリティの差を見せつけられる作品でない限り、テレビでリモートドラマを放送する意義は見出しづらい。
ただ、そのクオリティは脚本家の試行錯誤こそ見られたが、映像も音声も通常作品を下回っていた。つまり、「たまにはこういう毛色の違う作品があってもいいかな」というレベルであり、収穫は「今後に向けて演出の幅が少し広がった」ことだけだろう。そもそもリモートドラマは本当に視聴者が見たいものだったのか。例えば「仕事でリモート会議をしているからドラマでは見たくない」などの否定的な声は決して少なくなかった。スピードで完敗し、尺が短く、クオリティも微妙なら、これ以上の制作は努力の方向性を間違えているとしか思えない。

~著者のつぶやき~
制約があるほど、「その中で何ができるか」「自分ならこう楽しませる」とやる気を見せるのがトップクリエイターの性。その意味で坂元裕二らは「演出に頼れず会話劇で魅了しなければいけない」という状況に燃えたのでは。

★「GALAC」2020年8月号掲載