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【ギャラクシー賞テレビ部門7月度月間賞】-「GALAC」2020年10月号

タモリ倶楽部
「ストリートビューでオンライン撮り鉄!偶然鉄道フォトコンテスト」
6月26日、7月3日放送/24:20~24:50/テレビ朝日

 新型コロナが番組作りに多大な影響を与えていることはもはや自明。演者の距離をとる、別のスタジオから参加などが日常の光景となった。ならばいっそ、隣のビルと手旗信号でやりとりしよう、と対策を企画に落とし込んでしまうしたたかさはさすが。そのために手旗どころかモールス信号まで完璧に覚えてくる宮下草薙の宮下にも脱帽。この回の超リモート収録にも恐れ入った(7月24日放送分)。
 ネットのビデオ会議で集合、誰かの画面を共有しながら話すことも「新しい日常」になりつつある。それをそのままいただいて、しかも在宅で鉄道写真を撮影しようという企画もまた、言葉は悪いがコロナを楽しむという災禍へのカウンターパンチだった。グーグルマップのストリートビューに偶然映り込んだ鉄道車両を探し、ベストアングルでスナップを撮る。どの路線ならどこがいいか、車両はどこにいそうか、鉄分の高い面々の熱い討議は、いつもの鉄道クラブよりもむしろ白熱してくる。最初は半信半疑だったタモリも2週にわたる収録の最後にはすっかりハマりきっている。
 あの車両が撮りたい、海と一緒にいる車両はなど、タモリ鉄道クラブの猛者が繰り出すオタクトークは実に楽しく、番組スタッフの想定外の盛り上がりすらみせる。やれひな壇が作れない、街歩きができないなどと言っているバラエティ業界を尻目に、どんな状況でも面白いものは面白いということを教えてくれる。ああテレビとはこういうものだったなと再確認できる。
 番組では「偶然にもグーグル・ストリートビューに写り込んだ鉄道」ということで「偶然鉄道フォトコンテスト」と称しているが、番組内で「偶鉄」と呼んだこともあって、放送直後からSNSで同じことを試みる多くのユーザーが「#グー鉄」というハッシュタグで投稿を開始。これが大きなムーブメントとなった。まさに番組発の社会現象。制作手法の制限などといって縮こまっているのではなく、テレビにはテレビの力があるのだということを見せつけてもくれた。(兼高聖雄)

BS1スペシャル
「レバノンからのSOS~コロナ禍 追いつめられるシリア難民~」
7月12日放送/22:00~23:50/日本放送協会

 番組が始まってすぐに、レバノンの難民キャンプで暮らすシリア難民の青年が、焼身自殺した自分の父親の死を語りながら、涙声だが強い調子でカメラに向かってこう言った。
 ――世界は確実に僕らのことを忘れている。
 世界中のメディアが各地の新型コロナ禍を報道している。武漢で、ヨーロッパの各国で、ニューヨークで、ブラジルで、そして東京で。どの地域の事情も深刻で、感染拡大の恐れが語られ、対策が講じられ、治療や防御に取り組む医療関係者の活動が報道された。
 しかし、このドキュメンタリーはコロナウイルスの蔓延が世界で最も劣悪な環境の下で暮らす人々に最も深刻な影響を与えたことを伝えた。いまシリア難民は絶望の淵に追いつめられている。
 冒頭の発言をした青年の父親は9人家族を抱えた52歳の働き盛りだが、仕事はなかった。自らガソリンをかぶって火を放ち、全身に大やけどを負って亡くなったが、瀕死の病床で息子に呟いたという。
 「パン一袋も買えないようなこんな暮らしでいいのか、もう耐えられない、生き延びるのがつらい」
 レバノン政府はコロナ感染拡大防止のため、3月、非常事態宣言したが、外出禁止措置がシリア難民から日々の仕事を完全に奪った。120万人とも150万人ともいうレバノンのシリア難民に対して、レバノン政府は冷淡だし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援も十分には届いていないのが実情だ。
 そして、日々の暮らしのための収入を得る手段として彼らに残されているのは臓器売買と売春――という悲しくも切実な状況が明らかになる。
 どのインタビューも伝聞や噂によるものではなく、当事者の言葉を正面から果敢に捉えている。ケレンのない大胆かつ柔軟な取材である。腎臓を切除した脇腹の傷痕も、「仲介料に約7万円もらう」とあけすけに語る臓器売買の仲介者の言葉も、自らの売春体験を、涙で声を詰まらせながらも直截に語る若い母親の表情も、どれもシリア難民の現実なのだ。(戸田桂太)

ドラマ&ドキュメント
「不要不急の銀河」
7月23日放送/19:30~20:42/日本放送協会

 「なあ、俺たちの人生は不要不急だったのか?」
 「不要不急でしょうよ。不要不急以外の何物でもないじゃない」
 新型コロナ禍による緊急事態宣言の下、不要不急の外出を控えるよう政府や都が要請し、飲食業や多くの業種が大打撃を受けた(そして今も受けつつある)。私たちは当たり前だった日常において、何が不要不急で何がそうでないのか、選別するようになってしまった。
 又吉直樹脚本によるドラマ「不要不急の銀河」は、コロナ禍により経営不振に陥ったスナック「銀河」を舞台に、閉店をめぐる家族の葛藤を細やかに描いた。
 冒頭の引用は、店主(リリー・フランキー)の両親(小林勝也と片桐はいり)の会話だ。スナックに行くことが不要不急ならば、スナック経営に捧げてきた人生自体も不要不急ではないかという老父の切実な問いに対して、「不要不急以外の何物でもないじゃない」と老母は笑って答える。私たち自身の人生もまた不要不急なのではないかと気づかされるシーンだ。
 しかしその老母は、スナック銀河で常連客の誕生日にカラオケ大会を開催し、やがてそれは閉店を主張する店主の妻(夏帆)をも巻き込み、中島みゆきの『ファイト!』が熱唱されるなかで、思いがけない祝祭となってゆく。そしてついに老父扮するフェニックス=不死鳥が降臨した瞬間、不要不急と切り捨てられた銀河が甦り、一瞬の煌めきを見せるのである。
 実はこの番組は2本立てで、本編のドラマに先立ってメイキングが放送され、コロナ禍のもとでスタッフたちがどれだけ感染防止に心を砕きながらドラマを制作したかが伝えられた。メイクのブラシの使い方ひとつに専門家が助言し、子役が作った飛沫防止のアクリル板がドラマの小道具として取り入れられたりもする。
 コロナ禍で制作現場が止まったとき、作り手たちはドラマ作りの意味を考えただろう。そのひとつの答えがこのドラマなのではないだろうか。『ファイト!』の熱唱はすべての不要不急の者たちに向けたエールなのだと感じ、胸が熱くなった。(岡室美奈子)

フワちゃん
「徹子の部屋」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウンSP」(TBSテレビ)の出演

 今や、テレビで見ない日はないほどのフワちゃん。特に今月のふたつの番組での彼女を高く評価したい。
 ひとつは、7月22日放送の「水曜日のダウンタウンSP」(TBSテレビ)の「ネットニュースに載るまで帰れません」という企画。そこに出演したフワちゃんは、東京都庁をバックにジャンプした自撮りをSNSにアップして、見事ネットニュースになった。当日は東京都知事選の投票日。その写真には「国民の義務、ブチかましまくり イケてるギャルは、一旦全員選挙に行ってピース!!」と添えられていた。
 このとき、「『水曜日のダウンタウン』が必要なこういう部分を私が補ってあげてる」と言ったフワちゃんがとても印象的だった。必要であれば、バラエティでも政治を扱って構わない。まずユーチューバーとしてブレークした芸人・フワちゃんが、実はそんな風にテレビをクールに客観視していることがよくわかる。
 このようにフワちゃんは、成熟してはいるもののそれゆえ内輪ウケに終始してしまいがちな現在のテレビに風穴を開けてくれる貴重な存在だ。いわばテレビにとっての「内なる他者」であり、その点これまでいた数多くの旬の人気者とはひと味もふた味も違っている。
 もうひとつは、7月10日放送の「徹子の部屋」(テレビ朝日)。ここでは、いつものように大御所にもぐいぐい迫るフワちゃんと、まったく譲らない黒柳徹子の丁々発止の“バトル”が大いに楽しめた。
 一方でフワちゃんは、黒柳徹子がずっと憧れだったという。小学生の頃『窓ぎわのトットちゃん』を読んで以来、あまり上手に生きることができなかったフワちゃんにとっての人生のバイブルになったからだ。
 そうした生きづらさの感覚は、いまの日本社会で少なからぬ人々が抱えているものだろう。そしてこの新型コロナ禍において、一層それは高まっている。そのなかで超がつくほどのポジティブさを貫くフワちゃんの登場は、まさに時代が要請したものに違いない。
 テレビと社会の今を映し出す鏡のようなフワちゃん。彼女から今後も目が離せない。(太田省一)

★「GALAC」2020年10月号掲載