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【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年11月号

「軽い」の圧勝にみる「重い」の受難
「竜の道」(関西テレビ)

木村隆志

 世帯視聴率は民放のプライム帯で断トツの最下位。TBSの活況を見ればコロナ禍が続くなか、家でドラマを見てもらいやすい状況なのは間違いないだけに悔しさはひとしおだろう。
 「竜の道」は日本人が好む復讐劇であり、意外にも初共演という玉木宏と高橋一生のコンビは魅力的。斉藤由貴、松本まりか、奈緒と各年代の悪女巧者をそろえた女優陣も同様で、白川通の未完小説を実写化した志も高い。ここまでの低迷を招いた最大の理由は何なのか。
 最初のハードルとなったのはツッコミどころの多さ。「復讐のためなら関係のない人を殺していいの?」「整形する必要性ある?」「何でブラジルに行ったの?」「あの程度の敵なら裏社会と官僚の力ですぐ倒せるのでは?」。そう感じて初回2時間SPで脱落した人の気持ちはよくわかる。当作に限らず復讐劇は主人公に肩入れできなければ、楽しめないからだ。
 しかし、そんなツッコミどころをスルーできた視聴者の評判は決して悪くない。実際ネット上には「玉木と高橋の共演を満喫しながら、復讐が成就するクライマックスを待つ」という楽しみ方を見出した人の声が目立つ。また、序盤こそモタモタしたものの、中盤から終盤に向けて解任クーデター、殺人教唆などの臨場感ある流れを作って視聴者を引きつけていた。少なくとも断トツの最下位に落ち込むレベルの作品ではなく、他に原因を求めたくなってしまう。
 そのヒントは同じ火曜日の「竜の道」終了直後に放送されていた「私の家政夫ナギサさん」にあった。同作は家事が苦手な独身MR(医薬情報担当者)の仕事と恋を描いた物語だったが、見事なまでの右肩上がりで支持を獲得。ネット上には絶賛のコメントやコラムがあふれた。同作に悪役はおらず、事件も起きず、その牧歌的なムードは、ハードボイルドな「竜の道」とは真逆。「軽い」「重い」の差は歴然で、「火曜夜にどちらが選ばれやすいのか」を物語っていた。
 家政夫から優しくされるヒロインを見て癒された視聴者が多かったように、現在の視聴者は意外なほど主人公に自分を投影している。今回の結果で「軽い」作品の可能性は広がったが、「重い」作品はどうしていけばいいのか。やはり「重さのなかに救いや希望、明るさや温かさ、爽快感や痛快感をどう盛り込んでいくか」がこれまで以上に重要になっていくだろう。ドラマの多様性を確保していくためには、今後も「重い」作品にトライし続けてほしいところだ。これまでカンテレはその旗手となってきたが、当作の不調で路線変更しないことを祈りたい。

~著者のつぶやき~
「エンケンといえば悪役」というイメージも今は昔。いい人キャラが板につき、昨年は妖精も演じていただけに、ひさびさの悪役に戸惑った人もいるのではないか。だからこそしばらくは“悪役縛り”にしてほしい。

★「GALAC」2020年11月号掲載