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【ギャラクシー賞テレビ部門5月度月間賞】-「GALAC」2021年8月号

完璧な座組で‟博士ちゃん”たちを応援!

「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん 2時間SP」
5月1日放送/19:00~20:54/テレビ朝日

「好きこそものの上手なれ」――それをまんま番組にしたのがこの「博士ちゃん」だ。「世界一受けたい授業」や「池上彰のニュースそうだったのか!!」などなど、授業風の番組はこれまでにもあった。が、それらと決定的に違うのは、先生役を博士ちゃんなる子どもたちが担う点。博士ちゃんが得意な分野で大人顔負けの知識を披露。好きなことを嬉々として語る博士ちゃんたちがなんとも頼もしく、眩しい。
とはいえ子どもは子ども。カメラを前に緊張することだってあるはず。そんな博士ちゃんを優しく見守り、時に愛あるツッコミも交えてリラックスさせ、本来の、あるいはそれ以上の力をうまく引き出しているのが生徒役のサンドウィッチマンであり、両者の存在を繋ぐ存在として、番組の進行役を兼ねた芦田愛菜がいる。
彼らの醸す和やかな空気がなんとも心地いい。サンドも芦田愛菜も好感度の高いことで知られているが、この番組を見るとその理由がわかる気がする。
番組ではこれまでにも、お城博士ちゃん、野菜博士ちゃん、盆栽博士ちゃん、調味料博士ちゃん、昭和歌謡博士ちゃん……数々の博士ちゃんが登場し、そこから新たなスターも生まれた。今回の山本・リシャール・登眞くんもその一人で、11歳(現在は15歳)のときに最年少で世界遺産検定マイスターに合格した世界遺産博士ちゃんとして、番組に何度か登場している。
5月1日放送の回ではそんな博士ちゃんの「軍艦島の内部を見たい」という願いを叶えるべく、同じく軍艦島に興味を持つ伊集院光とともに現地を訪ねた。そこに映し出されたものはタイムスリップしたような景色。日本初の鉄筋コンクリートマンションの朽ち果てた姿、いまだ遺る生活痕にただただ圧倒される。特別に非公開エリアのロケが認められたのは、博士ちゃんの願いを叶えるため、大人たちが奔走した結果であることは言うまでもない。
ともすれば、変わり者で片づけられてしまうかもしれない博士ちゃんたちに寄り添い、光を当てる。「博士ちゃん」は未来を創る番組でもある。(桧山珠美)

彼女は私だ――日本社会が作った深い闇

ストーリーズ 事件の涙
「たどりついたバス停で~あるホームレス女性の死~」
5月1日放送/22:40~23:10/日本放送協会

昨年11月、東京都渋谷区のバス停で路上生活者の60代女性が男に突然殴り殺されるという事件が発生した。番組では、事件の被害者がどのような人物で、いかにしてバス停にたどりつき、なぜ殺されなければならなかったのかを追った。と同時に、本シリーズは事件そのものよりもその周辺に目を向けるのが特徴。本作では、この事件をきっかけに多くの人(特に女性)たちが、「彼女は私だ」と声をあげ始め、それがなぜひとつのムーブメントとなったのかを描いている。
被害者である彼女は、かつて劇団員や結婚式の司会をやるような社交性の高い人物。事件が起こる数カ月前までは、スーパーの試食販売員として笑顔で接客していたという。しかし、コロナ禍で対面の接客はできなくなり一気に仕事を失った。生活保護などを求めることもせず、アパートも引き払い、路上で暮らすようになった。兄弟もいたが、自立心が強かった彼女は助けを求めることができなかったのだ。大勢の人がバス停で休む彼女の姿を見かけていたが、声をかけることもなかった。
そんな彼女の境遇を聞き、多くの人たちが自分もその予備軍ではないかと実感している。追悼集会には多数の若者が集まり、路上生活者支援の活動にも若者が増えているという。彼女が休んでいたのは奥行きわずか20センチほどの狭いベンチ。しかも仕切りがあり、横になることもできない。けれど一方で幹線道路沿いということもあり、ほかの場所に比べ明るく人通りもある。一時期、路上生活の経験のある女性は「少しでも自分が社会にいるって感じたかったのかも」と、彼女がこのバス停を選んだ理由を推察する。
本当は助けを求めればいい。けれどそれを簡単には言えないのが、「自己責任」などという言葉が他者にも容赦なく向けられる日本社会に仕組まれているひとつの大きな闇だ。ポツンと置かれたバス停の狭いベンチが、そんな社会の状況を象徴しているかのようだった。その映像が強烈な後味となって重い余韻を残すドキュメンタリーだ。(戸部田 誠)

「権力を監視し、弱者に寄り添う」使命を体現

報道特集
特集「森友問題・自殺した職員の元上司が語る」
特集「スリランカ人女性・死の真相」
5月1日、8日放送/17:30~18:50/TBSテレビ

2020年度のギャラクシー賞報道活動部門大賞を受賞した「報道特集」。膳場貴子キャスターは贈賞式で、報道特集の根幹は「現場主義と調査報道、そして当事者の声に耳を傾けることだ」と述べた。今回月間賞に選ばれた「森友問題・自殺した職員の元上司が語る」(5月1日放送)と、「スリランカ人女性・死の真相」(5月8日放送)は、膳場キャスターが言い表した「報道特集」そのものだった。
「報道特集」は、「森友問題」を発覚直後の2017年3月から取り上げており、今回で9作品目となった(うち4回は自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さんに密着)。今回は自殺した赤木さんが残したとされる「赤木ファイル」の存在が裁判で焦点になっている最中、その存在を知る赤木さんの元上司に金平茂紀キャスターが直撃した内容だった。元上司が、ためらいながら「真摯に対応したつもり」という言葉を発したのだが、その直前に、金平キャスターの名刺をちらっと眺めたのが印象的だった。官僚や政治家なら誰もが知っている「報道特集」「金平」という文字と、妻・雅子さんの思いが元上司の重い口を開かせたのだろう。この放送直後の5月6日、国は「ファイル」の存在を初めて認め、裁判に提出することを明らかにした。
もう一つの「スリランカ人女性・死の真相」も、真相解明を訴える遺族に密着し、入手した資料や関係者への取材をもとに、ウィシュマさんの死の真相に迫った調査報道だ。折しも国会で入管難民法の改正案が審議されている最中での事件だっただけに注目度も高かった。改正案の審議中にウィシュマさん死亡に対して法務省から中間報告が出された。だが、隠蔽ともとれる内容が次々と明らかになるなかで、「報道特集」は彼女の死の真相に一歩近づいただけでなく、入管難民法改正案の問題点を鋭く指摘した。政府は世論の声に押され、この法案の成立を断念し廃案となった。
5月に放送されたこれら2本は、ジャーナリズムの使命である「権力の監視」と「弱者への寄り添い」の体現そのものの作品だった。(桶田 敦)

言葉が破壊されている時代への風刺

土曜ドラマ
「今ここにある危機とぼくの好感度について」
4月24日~5月29日放送/21:00~21:49/日本放送協会 NHKエンタープライズ

痛烈にして痛快、極上のブラック・コメディである。物語は、当たり障りのない発言だけを駆使して高い好感度を保ってきたイケメンアナウンサー、神崎真(松坂桃李)が母校の名門国立大学の広報マンに転身するところから始まる。徹底して“意味のあることは言わずにやり過ごす姿勢”こそ、彼が大学理事会からの支持を得て広報担当に採用された理由だ。
神崎は着任早々から、ノーベル賞の期待もかかるスター教授の論文データ改竄、大学イベントのゲスト講師に予定したジャーナリストのネット炎上など、大学が直面する問題処理に追われていく。そのなかで描かれる理事会の保身の詭弁、権力組織の持つ隠蔽体質、忖度、はぐらかし、真っ当な主張の無力感……等々は、言うまでもなく今の日本社会そのものである。
渡辺あやの脚本はさすがの一言。「今流行りの権力者による言葉の拡大解釈や意味の読み替え」「あの人たちは自分のこと(中略)権力持ってるから強いと思ってる、強いから間違うわけないって思ってる」「あってはならないというのは願望であって、ありえないの理由にはならないでしょう」「その人たちを見殺しにするってことですよね、たかがイベントのために」といった鋭い台詞の数々が繰り出される。
劇伴選曲のセンスも特筆もの。バッハのカンタータ第140番《目覚めよと我らに呼ばわる物見らの声》が物語の要所にさまざまなアレンジで流れ、時にやるせなく、時に希望の旋律となって響くのだ。
最後までどこか情けないながら憎めない神崎を演じた松坂桃李、良心と矜恃を保つ総長の松重豊、絶妙なケレン味で理事会の面々を演じた達者な役者たち。不正を告発する研究者役の鈴木杏、シニカルな語りの伊武雅刀ら、すべての演者が小気味良い名演を見せた。
言葉が破壊され何も答えずはぐらかして逃げ切ったもの勝ちになってしまった世の中に危機感を抱いたという勝田夏子プロデューサーと渡辺あや、制作陣がそのメッセージを鮮やかに映像化し、一筋の光明を見せてくれたことに心から敬意を表する。(永 麻理)

★「GALAC」2021年8月号掲載