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【ギャラクシー賞テレビ部門12月度月間賞】-「GALAC」2022年3月号

視覚障害×恋愛、偏見なき快作

水曜ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」
10月6日~12月15日放送/22:00~23:00/日本テレビ放送網 日テレ アックスオン

これまで感動路線一択だった視覚障害の題材を、とびきりのラブコメディで見せた快作だ。一歩間違えば不謹慎と背中合わせの挑戦。いい原作のもと、脚本、演出、俳優が志を一つにし、恋をした若者の馬力と輝きを画面いっぱいに届けてくれた。
コミック『ヤンキー君と白杖ガール』(うおやま著)をドラマ化。盲学校生のユキコと、顔に傷がある無職ヤンキー、森生が点字ブロックで衝突。強キャラ女子と、舎弟のように懐き始める陽キャラ男子の出会いを、杉咲花×杉野遥亮が生き生きと立ち上げた。
見えないユキコには森生の顔の傷は気にならないし、森生から見れば白杖を手にまじめに生きてきたユキコは神。偏見のない異文化交流が社会との接点になっていく。「声の身長差」対策でユキコが初めて一人で服を買ってみたり、音声ガイド付き映画をきっかけに森生がレンタルビデオ店で働き始めたり。視覚障害をしっかり描いた二人の成長に応援しがいがある。
「見えないから、自販機は運試しなの」「ギャンブラーっすね!」みたいなやりとりに爆笑だ。目当てとは違うドリンクが出てきても、森生の好物と思えばちょっと嬉しい。日常のなかにある小さな幸せに気づくのが恋の力。その尊さ、輝きを表現できる俳優は貴重で、この役をやりたかったと悔しい思いをしている若手は多いはずだ。「世界は思っているより優しいのかもしれない」。調理師の道に踏み出すユキコと、ふさわしい人間になりたい森生の奮闘に勇気をもらった。
「見えない」を可視化した演出も効いていた。ユキコは色と光をぼんやり感じる弱視の設定。鏡に顔らしきものが映るメイク場面やスマホの巨大文字など、見た目になるほど感があった。白杖のお笑いタレント、濱田祐太郎を起用したミニ解説も本線に溶け込んだ。
最終回は、見守ってきた人たちの新たな一歩がいい後味。ユキコの姉、イズミ(奈緒)と、森生の不器用な親友、獅子王(鈴木伸之)。誰よりも幸せになってほしい二人のピュアなハグが忘れられない。この作品の格調は、この二人あってこそだった。(梅田恵子)

万人が同じ本を求めているわけじゃない

理想本箱 君だけのブックガイド
「もう死にたいと思った時に読む本」
「同性を好きになった時に読む本」
12月9、16日放送/22:55~23:20/日本放送協会 オッティモ NHKエデュケーショナル

おすすめの本を紹介するブックガイド番組は珍しくない。だが多くの場合、それは万人に向けられたものだ。それに対しこの番組は、実際に番組に悩みを寄せた一人の若者、サブタイトルにもあるように「君だけ」に向けられている。つまり、「オーダーメイドのライブラリー」。その点がまず、ユニークだ。
どこかの静かな森のなかにある図書館という設定。そこで働く吉岡里帆、太田緑ロランス、幅允孝の3人が、「もう死にたいと思った」、「同性を好きになった」という「君」が抱えてしまった悩みや不安をしっかり受け止め、直接の答えにはならないかもしれないが、物の見方をちょっと変えてくれたり、気持ちを少し楽にしてくれたりするかもしれない本を紹介していく。
その紹介の仕方が、また素晴らしい。ブックガイド番組には常に、活字メディアである本をいかに映像化するかという課題が付きまとう。それに対するこの番組の答えは、「映像の帯」というものだ。それぞれの本にまつわる映像を通じ、内容のエッセンスを紹介する。構成を源孝志が担当し、その手法も番組オリジナルのドラマ、本の一節の朗読、著者の講演映像など多彩で、本の性質に応じて柔軟に選択されている。
例えば、『わたしはオオカミ』という本のもとになった著者のアビー・ワンバックによる実際のスピーチの映像は、本の持つ説得力を感じさせてくれるものだったし、『カミングアウト・レターズ』という本の、自分がゲイであることを告白した息子とその母親の往復書簡の部分をドラマ化した映像は、リアルかつ深く感動的なものだった。また、若松英輔のエッセイ集『悲しみの秘義』のなかに引かれている石牟礼道子の一文の根岸季衣による朗読には、心を揺さぶられた。
この「映像の帯」という卓越したアイデアによって、私たち視聴者も、「君」とどこかで確かに繋がっていると実感できる。「君」、番組、そして私たち視聴者。この三者の間に、本というメディアを通じて良き出会いが生まれる。そんなこの番組は、まさに“理想のブックガイド番組”と言っていい。(太田省一)

濃密に描かれた「秘密」の物語

金曜ドラマ「最愛」
10月15日~12月17日放送/22:00~22:54/TBSテレビ TBSスパークル

かつて名作ドラマ「Nのために」(2014年)を生み出したチームが、またもや完成度の高いドラマを見せてくれた。今作「最愛」では、「Nのために」がそうであったように、過去と現在を往還しながら秘密をめぐる物語が情感豊かに描かれ、単なるミステリーや恋愛ものを超えた濃密な世界が構築された。
物語の中心となるのは、ヒロインの真田梨央(吉高由里子)と、梨央を愛する刑事の宮崎大輝(松下洸平)、そして梨央に寄り添う弁護士の加瀬賢一郎(井浦新)だ。この3人を軸に、15年前と現在の二つの殺人事件をめぐって、愛する者のために秘密を守る者と暴く者の攻防と葛藤が描かれる。毎回最後に挿入される黒い箱は、秘密を閉じ込めるための箱であり、秘密を守る者はその箱に鍵をかけることで愛を貫く。
登場人物のなかで、最も深い葛藤を抱えるのは大輝だろう。大輝は最愛の梨央やその弟・優(高橋文哉)を追い詰めることになっても、刑事として秘密を暴かざるをえない。大輝は正義の人だからである。松下は、揺れる大輝の心情を繊細に表現した。
最終話で、最大の秘密の箱を抱えていたのは弁護士の加瀬だったことがわかる。加瀬は15年前に梨央の父・達雄(光石研)による死体遺棄に協力し、新たな殺人にも手を染めていたのだ。それはおそらく家族を知らぬ加瀬が、梨央と優を守ろうとする達雄の、法をも超えた深い愛情に胸を打たれ、それを受け継いでしまったからだろう。そして電話を通して加瀬の秘密を共有した大輝は、梨央にはそのことを知らせず、梨央と優のために秘密を守る者へと変容するのだ。
毎回一人称ナレーションの語り手(登場人物の誰か)が変わり、それぞれの語り手は自分や最愛の者について語る。そうして愛情のベクトルを複雑に錯綜させ、毎回異なる人物を犯人かと思わせて視聴者を惹きつけながら、少しずつ真相に近づいていく構成は見事。
「最愛」は、愛する者のために秘密を守り抜くことで愛を貫く物語である。それぞれの愛の強さに、私たちは打ちのめされるほかない。(岡室美奈子)

軍の命令に無力だった兵士たちの苦悩

BS1スぺシャル「歩兵第11連隊の太平洋戦争」
12月19日放送/22:00~23:50/日本放送協会 テムジン NHKエンタープライズ

陸軍の連隊名がタイトルになっているが、軍隊の行動や戦果がテーマではない。描かれたのは軍の命令の前で無力だった兵士たちの内面の苦悩である。戦後を生き延びて、年老いた元兵士たちが絞り出すように語る言葉が戦争の無残を伝えている。
中国戦線からマレー半島に上陸してシンガポールを制圧した連隊は、中国系住民(華僑)の治安粛清を行った。反日と疑われた住民はその場で殺害されたという。命じられて実行した元兵士たちの証言が悲しい。
奥地の村でも理不尽な殺戮が行われた。死者は婦女子を含む350人余り。狂気の沙汰だが、陣中日誌には「戦闘中の殺傷」と虚偽の記述が残る。地元の警察官らの具体的な証言で真相が判明し、現地指揮官の橋本忠少尉は戦犯として処刑された。このとき殺害を免れた高齢の村人(当時7歳)の証言が重く響いた。
村では今も犠牲者の慰霊が行われている。刑死した指揮官の甥にあたる人物がその場に立つ場面がある。マレー半島での戦争被害の調査を続ける日本の研究者に同行し、慰霊の場への参列が許されたのだ。誰もが複雑な想いで立ち尽くす現場の雰囲気が厳しい。
偽装病院船での将兵・武器の輸送という国際条約違反の暴挙も明らかにされた。この作戦を命じた師団長と参謀長は終戦前に自決したというが、偽装船はすぐにアメリカ海軍に拿捕されて、1500人の将兵が一度に捕虜になった。病人を装って白衣を着た日本兵が捕虜となって並んでいる米軍の映像が残っている。
この件について、第11連隊の山本忠元中尉の証言が残されている。2012年に100歳で亡くなったが、09年、97歳のときに撮影したものだという。
山本は偽装病院船での移動の命令を受けて驚き、軍隊も上官も信じられない気持ちになったという。上官の自決を知って、副官だった自分も……と考えたが、「送られてきた写真のわが子の姿を見ると、どうしても死ねなかった」。微笑とも悲しみとも見える表情で語る97歳翁の姿は優しく人間的だ。そこに「寛容」が感じられる穏やかな態度だった。(戸田桂太)

★「GALAC」2022年3月号掲載