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【ギャラクシー賞テレビ部門10月度月間賞】-「GALAC」2023年1月号

名物店で繰り広げられる群像劇

「ヒューマングルメンタリー オモウマい店 2時間SP」
10月4日放送/19:00~21:00/中京テレビ放送

2021年4月にレギュラー化して以降、多くの名物店主を“発掘”してきた。「騒ぐんじゃねぇ」と言いながらお釣りを多めに渡してくる中華料理「珉珉」の店主。番組スタッフを言葉巧みに働かせようとする中華料理「味のイサム」の店主。ウーバーイーツ配達で副業する居酒屋「たざわこ」の店主。真夏にエアコンが壊れて悩むスパゲティ屋「夢の中へ」の店主。安くておいしい店を紹介していたはずが、いつの間にか店主らの人柄に魅せられていく。そんな個性的な店主たちを前に、取材していた番組スタッフは、否応なしに画面のなかに引きずり出される。この番組の最大の魅力は、取材者と被取材者が築く、奇妙な関係である。
受賞はこれら一連の放送も含むが、特に10月4日のスペシャルは、この番組の特徴が生きていた。埼玉県にある蕎麦屋「茂三郎」には、35人の弟子を持つ73歳の店主がいる。家中を半裸で歩きまわり、蕎麦嫌いを豪語する。ふらっと店に立ち寄った番組ADは36番目の弟子に認定され、いきなり蕎麦打ちを習うことになる。途中、師匠となった店主がカメラを持ち、ADに蕎麦打ちを教えながら撮影しはじめる。取材者と被取材者の可笑しな反転であった。このシリーズはこれにとどまらない。番組を見て弟子にしてほしいと兵庫から中年男性が現れるのだ。40番目の弟子となった彼は、不器用ながらも約9カ月間の修行を終え、自分の店を構えるために帰郷する。別れ際、いつもは厳しい師匠の目に、うっすら涙が浮かんでいた。
テレビが取材した店に客が殺到するということは、これまで数多あった。しかし、この番組では、ある店を取材したら、いつの間にか番組スタッフが店の一員となり、その放送を見た視聴者も加わって、店からの独り立ちまでもカメラに捉えてしまうのだ。こうしたテレビを介した群像劇は、番組スタッフがお店の人との交流を楽しんでいるからこそ、生まれてくるのだろう。それがMCのヒロミや小峠英二に伝わり、視聴者にも伝わっていく。心から笑え、安心してツッコめる、稀有な番組である。(松山秀明)

復旧復興のために消えるふるさと

NNNドキュメント’22
「ふるさと解散 豪雨時代被災集落からの警告」
10月9日放送/24:55~25:25/福岡放送

100年に一度といわれるような豪雨災害が、毎年のように全国各地で頻発している。発災時の集中的な報道が次第に減って社会の目はほとんど向かなくなるころ、被災地で始まる本当の意味での復旧復興の歳月。そこに浮かび上がる安全のための復興と個人の生活や人生とのせめぎあいを見つめた地域発の報告である。
5年前、九州北部豪雨で19名が亡くなった福岡県朝倉市。その小河内地区では17世帯全戸が濁流にのまれ50人が避難生活を強いられた。瓦礫と化した自宅の前で「一日も早い復興を」と、涙ぐんでいた住民も次の春、生き残った桜の花に「われもがんばらな」と勇気づけられた。1年が過ぎ復旧工事が始まるころ、故郷に戻るか否か意見が分かれ始める。決定的だったのは被災後2年目、朝倉市が地域を水害から守る砂防ダムの建設方針を固め、小河内地区の一部で家の再建ができなくなった。そして今年3月、いつか故郷に戻りたいと願っていた住民たちの希望はむなしく、辛い話し合いの末、小河内集落は解散となった。「まさか自分のところが……」というつぶやきは、今やどの地域にとっても他人事とは言えない言葉だ。
4年前に西日本豪雨でがけ崩れによる甚大な被害が出た北九州市でも、危険な傾斜地を市街化調整区域に指定し、その地域の住民を減らし災害に強い地域づくりを目指そうとしている。当然、住民たちからは反対運動が起こる。だが、災害リスクに対する意識変化も生まれ、自主的な災害訓練では住民たちが地図を広げ危険場所を共有しあう場面も見られるようになった。
行政も住民も災害の悲惨は身に染みている。「仕方がないではすまされない」苦渋を飲み込みつつ、自然と安全と生活の均衡を模索する場面に直面している。そのプロセスにはもう少し踏み込んでほしかったが、復旧復興の名の下に地域が変わりつつある事態は、全国各地でさまざまな形で進行しているはずだ。生活の復旧、心の復興の道程を共有しながら、人知れず進む地域の変容とそこに住む人々の想いを見つめることができるのも、地域局の役割の一つだろう。(古川柳子)

競技かるたの魅力を深掘り

「勝敗が決まる瞬間2022~ドキュメント 小倉百人一首競技かるた高校選手権~」
10月11日放送/20:00~21:50/日本放送協会 knot NHKエンタープライズ

古典和歌の優雅な格調に包まれながら、高校生が校名を背負ったTシャツとジャージの軽やかなスタイルで、黙々と烈々と札を取り合う「競技かるた」。全国大会は毎年7月に滋賀県の近江神宮で開催、2022年は61の代表校が頂点を目指した。大会の模様を追う前後編100分のドキュメンタリーだが、全体の軸足はタイトル通り「勝敗が決まる瞬間」に置かれる。
学生の部活を題材とした際、野球でも吹奏楽でもロボコンでも番組を牽引するのは人物やチームの個性やドラマで、その成長物語に軸を据えるのが定番だ。だがこの番組、着目した高校生の横顔も存分に見せていくがそこだけにとどまらない。主軸は勝敗そのもの。このスタンスが競技かるたの魅力を見事に深掘りし、一般的な「〇〇甲子園ドキュメント」と一線を画した。
数多の対戦からここぞという勝敗の瞬間がクローズアップされる。場面の解説、スロー映像、対戦当事者による振り返り証言、控え部員も含む第三者からの視点など、勝敗が決まった瞬間を多角的に紐解いていく。そこには相手のメンタルを読む心理戦があり、展開に応じて札の配置を決める戦略があり、序盤中盤終盤で変化する攻防があり、さまざまな要素の絡みあいがあるとつぶさに伝わる。場面に応じて必要なルール説明も入り初心者が置いていかれることもない。極力ナレーションを入れず短文テロップで解説を添える演出もいい。朗々とした歌詠みの声音、激しくかるたを取りあう擦り音、その響きも十分に伝わってくる。さらに強豪校の男子主将と真っ向勝負に立つ最強女子や、聴力を保つため電車内で耳栓を常用する姉妹ほか、マンガのような個性も次々登場して引き込まれる。
勝敗の瞬間を丹念に詳解する手法に、スポーツドキュメンタリーの草分け「NHK特集 江夏の21球」(1983年)が思い浮かんだ。今も脈々と受け継がれる手法を、高校生の競技かるたに用いて結実させるとは。「深いでしょう、面白いでしょう、この高校生たちすごい勝負をしてるんですよ」――そんな制作陣の声が静かに、熱く聞こえてくるようだった。(松田健次)

世界史から、違う「幕末」が見えてくる

NHKスペシャル 新・幕末史 グローバル・ヒストリー
「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」
「第2集 戊辰戦争 欧米列強の野望」
10月16日、23日放送/21:00~21:50/日本放送協会

子どもに歴史を教えるとき、どうして日本史と世界史を分けるのだろうと不思議に思っていた。
ロシアのウクライナ侵攻を、欧米や中国の存在を無視して考える人はいないだろう。幕末の争乱も同様である。この番組は関係各国の公文書を丹念に読み解き、幕末の動きを世界的な潮流のなかで見直そうと試みた。
番組で描かれた幕府の勘定奉行・小栗忠順は、当時の超大国イギリスの関税引き下げによる輸出攻勢に、貨幣改鋳によるインフレ政策で対抗する。幕府はまだそれだけの統治能力を持っていた。イギリス政府は費用対効果を計算して日本の植民地化を断念。代わってロシアの脅威が迫ると、イギリスのパークス公使は扱いにくい幕府に代わる新政府樹立支援に舵を切る。
幕府が米、蘭の軍艦購入で武力増強を図ると、パークスは欧米諸国の外交団を巧みにリードして内戦勃発による局外中立を宣言。逆に新政府による安定が望ましいと判断すると、箱館戦争がまだ続いているにもかかわらず、内乱終結による局外中立撤廃を決める。維新の大業として語られてきた戊辰戦争も、イギリスの一外交官がその開始と終了を決めたことになる。
クリミア戦争に敗れて地中海への出口を塞がれたロシアは南下政策の拠点を日本に求め、植民地獲得競争に出遅れたドイツ統一直前のプロイセンは北海道獲得に邁進。各国の商人もアメリカ南北戦争終結でだぶついた最新兵器を、戊辰戦争の両陣営に売りつける。これだけのグローバルな動きを「開国」「黒船」という言葉に凝縮することには無理があるだろう。
たしかに島国・日本では国内だけで出来事が完結することも多いが、奈良・平安時代の諸制度や、平家政権、室町幕府の財政基盤を語るのに大陸の影響を抜きには考えられない。さらには、蒙古襲来後の武士たちの不満が鎌倉幕府崩壊を早め、戦国時代の終結に鉄砲伝来の果たした役割は決して小さくない。
視野を広げて初めて見えることもある。広く捉えれば歴史の理解にも説得力が増し、もっと楽しく学べるだろう。こうした動きに期待したい。(加藤久仁)

★「GALAC」2023年1月号掲載