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【ギャラクシー賞テレビ部門4月度月間賞】-「GALAC」2023年7月号

がん宣告で、ほんとうの夫婦になっていく

特集ドラマ
「幸運なひと」
4月4、11日放送/22:00~22:45/日本放送協会

夫が突然「末期がん」を宣告された若い夫婦の物語。とあれば、お涙頂戴的な闘病ドラマを想像しがちだが、このドラマはそうではない。“がん”で終わりなのではなく、そこからも続いていく“日常”を、当事者・配偶者それぞれの立ち位置から葛藤や心の揺れ、夫婦のズレを修復していくさまを、悲壮感なく、むしろユーモアを交えて描いたところがいい。
生田斗真演じる主人公の松本拓哉は、高校の体育教師。地元出身で大学時代は駅伝の選手としてちょっとしたヒーロー的存在。一方、多部未華子演じる妻・咲良は、音大出身でミュージシャンのマネージャーをしているが、演奏家としての夢もまだ諦めていない。会社までは遠いが、地元で暮らしたいという夫の願いで遠距離通勤を受け入れている。
一見、仲良く見える夫婦だが、家庭のことは二の次で、話があるといっても忘れてしまう夫に、妻の不満はたまる一方。さらに、出産適齢期のこともあり、すぐにでも子どもが欲しい妻と、現実味が持てない夫。夫婦には見えないすきま風が吹いていた。
そんな折、妻に演奏家としてのチャンスが巡る。夫と別れ、夢に賭けよう、妻がそう決意した時、夫が末期がんと宣告される。夫婦の日常に突如現れた“がん”。が、そこにあるのは悲しみだけではない。泣いて笑って。喧嘩し、傷つけ傷つけられ。思いやりの気持ちも、時間の経過とともに薄れてしまう。何より自分にも生活がある。「愛情と罪悪感の綱引きというか、愛情はあるけど愛情だけではダメで、現実なところもどこかで計算しなければいけない」と妻。「妻の未来に嫉妬しない」夫もまた葛藤していた。別々の方向を向いていた夫婦が、がんという病を得て、互いを理解し合い、ほんとうの夫婦になっていくさまを、生田と多部が繊細に演じてみせた。
エゴをぶつけ、ぶつけられる相手に出会えた拓哉は「幸運なひと」だ。自らの体験を脚本に刻みつけ、闘病ドラマに新風を吹き込んだ吉澤智子への労いと賛辞の言葉にかえて。(桧山珠美)

住民訴訟、司法の内側で起こっていたこと

ETV特集
「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」
4月15日放送/23:00~24:00/日本放送協会

刑法学の権威で最高裁判所裁判官を務めた團藤重光の遺したノートに公害で初めて国の責任が問われた「大阪空港騒音訴訟」を巡る最高裁内部の動きを記した資料があった。一審、二審は「夜間の飛行停止」を求めた住民側が勝訴した。最高裁では團藤の所属する第一小法廷で審議が行われ1978年5月に結審。團藤のノートには、「差し止めが中心」と記され第一小法廷では、原告勝訴の方向だった。
しかし、国は7月に審議を大法廷に回付するよう異例の上申をする。團藤は第一小法廷の岸上康夫裁判長から「最高裁長官の部屋で上申書の扱いを協議していると、村上朝一元最高裁長官から大法廷への回付を要望する電話があった」と聞いたという。團藤のノートには「この種の介入は怪しからぬことだ」「引き延ばし作戦だ」と怒りを込めて書かれている。結局、岡原昌男長官の判断で大法廷への回付が決まったが、差し止め容認が5人、反対が5人、不明が4人と意見は拮抗していた。岡原長官を継いだ服部高顕長官は裁判官が交代することを理由に審議を再度中断。政府が新たに任命した4人の裁判官は全員差し止め反対で、1981年最高裁大法廷は、民事訴訟で飛行差し止めは認められないとして過去の損害賠償のみを認める判決を出した。團藤は「救済を求める途をふさいでしまうことは疑問だ」と反対意見を書き、ノートには「傍聴席からはため息のようなものが漏れた。原告たちに可哀相だ」と書かれている。
この大法廷判決には厳しい批判が寄せられたが、横田基地騒音訴訟などに引き継がれ、その後の判例の流れとなった。原告の一人は「ものすごい政治的な力が働いたに違いない」と激しく憤ったが、当時の政府関係者は「こうしたノートが出てはいけない」と述べ反省の姿勢は見られない。「最高裁は人権救済の最後の砦」ともいわれる。團藤のノートは、その内部で何が行われているのかわからない司法の内実の一端を明らかにしている。司法がその責務を果たしているのか厳しく問い質すドキュメンタリーだ。(石田研一)

沖縄を正面から見つめた勇気あるドラマ

連続ドラマW
「フェンス」
3月19日~4月16日放送/22:00~23:00/WOWOW NHKエンタープライズ

2022年は沖縄の本土復帰50年の節目だったが、残念ながら米軍基地問題に踏み込んで沖縄の現状をリアルに伝えるドラマはなかった。沖縄をめぐる問題は政治的であるのみならず、さまざまな立場や思惑が交錯してきわめて複雑であり、一筋縄ではいかないからだ。よほどの知識と覚悟をもって臨まなければ表面的な問題提起で終わってしまいかねない。
そんななか、沖縄の現在を真正面から見据えた勇気あるドラマが生まれた。「フェンス」は、元キャバ嬢のライター・小松綺絵(松岡茉優)が、沖縄で米兵から性的暴行を受けたと主張する大嶺桜(宮本エリアナ)の事件を調査し真相を究明するドラマである。その過程で、綺絵もまた幼い頃に沖縄で母が性的暴行の被害に遭った現場を目撃していたことが明かされ、母娘の再生の物語にもなっていく。
「フェンス」というタイトルは沖縄の米軍基地を囲むフェンスを指し、不平等な日米地位協定による基地への不可侵性を意味する。しかしそれだけではなく、二者を隔てる「フェンス」が実はさまざまなところに存在することを描き出した点に本作の真骨頂がある。例えば本土と沖縄、基地移設問題に対する賛否に加えて、男と女、親と子、肌の色などだ。そうしたフェンスへの気づきは性犯罪を糾弾するにとどまらず、無自覚的に女性の性を消費してきた警察官・伊佐兼史(青木崇高)ら登場人物たちを変えてゆくし、私たち視聴者自身の潜在的な差別意識を炙り出しもする。
本作は犯人捜しのサスペンスとしても充分楽しめるが、私たちを取り巻き、私たち自身もまた知らずに創り出しているフェンスをいかに取り払い二元論を超えてゆくかを問うドラマである。
沖縄で100人以上からヒアリングしたという徹底した取材を踏まえてこの勇気ある企画を実現させた脚本家の野木亜紀子、プロデューサーの北野拓と高江洲義貴、そして見事な演技でこのドラマにリアリティを与えた松岡、宮本、青木ら俳優陣に心から大きな拍手を送りたい。(岡室美奈子)

白か黒かを決しないグレーな時代のクイズ

誰でも考えたくなる
「正解の無いクイズ」
4月3日~放送/毎週月、火、水17:30~17:45/テレビ東京

「フランスパンで戦車に勝つ方法を教えてください」「サザエさん一家に高級オープンカーを買わせるにはどうすればいいですか?」――など出題されるクイズに正解が無い。そもそもクイズ番組は正解を知るカタルシスと正解不正解で勝敗が分かれるゲーム性が基本構造のコンテンツだ。だが当番組にはそれがない。クイズ番組史の系図からも明確に別系で記されるフォーマットだ。ただその一点においてこの番組は新しい。
番組は昨年秋に単発で試され今春レギュラー化。企画の基は昨今の企業や大学で出題される独自の思考力を問う試験問題だ。例えば「魚のいない海で、魚を釣り上げる方法を教えてください」。求めているのは知識ではなく応用力だ。IT化が進んだ社会は企業も教育機関も従来の知識偏重から移行し、応用力や発想力など課題解決型の思考スキルが高い人材の発掘育成に目を向けている。その潮流が当番組にストレートに反映されたわけだ(また、問題設定の源流には倫理学で有名な「トロッコ問題」もあるだろう)。出題に解答を寄せるのは各界の天才・奇才・変人とされるアクの強い頭脳派たちだ。ときおり最新AIも解答者に加わる。彼らが導き出した妙案珍案から最も共感できる最適解が(軽いマルの造語で)「カルマルアンサー」に選ばれる。放送は週3回の15分枠。毎回1問のみの出題でクイズに集中しやすい。短尺が好まれる動画配信も見据えているのだろう。
振り返れば「話の泉」(1946〜64年、NHKラジオ)から始まるクイズ番組の足跡は教育熱、海外志向、賞金バブル、高齢化(脳トレ)等々、時代を反映させながら歴史を刻んできた。白か黒に決しないグレーな課題が山積し続ける時代を背景に「正解の無いクイズ」は次世代を担うフォーマットになるかもしれない。
ちなみに文頭の「フランスパン」問題は軍事評論家による解答が支持を得た。「我々の陣営にフランスパンが何十万本もあると噂を流し、大量の食糧を有する大軍だと想像させ、向こうから撤退させる」、なるほど大いにうなずける情報戦略だ。(松田健次)

★「GALAC」2023年7月号掲載