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【ギャラクシー賞テレビ部門6月度月間賞】-「GALAC」2023年9月号

虚実の境界を自由に行き来

金曜ナイトドラマ
「波よ聞いてくれ」
4月21日~6月9日放送/23:15~24:15/テレビ朝日 メディアミックス・ジャパン

とにかく小気味良いのである。鼓田ミナレ(小芝風花)は、失恋直後にバーで出会った地元のラジオ局MRSのディレクター麻藤兼嗣(北村一輝)にそのトーク力を見出され、スープカレー屋VOYAGERで働きながらラジオパーソナリティとなる。ど素人のミナレは勢いにまかせて歯に衣着せぬアドリブをまくし立てるのだが、ミナレを演じる小芝のマシンガントークが素晴らしい。滑舌が良く一切噛まないのだ。一見ぶっ飛んだキャラクターのミナレの、忖度なしに物事の本質にぐいぐいと迫っていく話術にスカッとした視聴者も多かったのではないだろうか。
しかし本作は、ただスカッとするだけのドラマではない。虚実混交の構成も手が込んでいるし、何よりラジオというメディア自体へのまなざしが効いている。
第1話で麻藤の策略でラジオ出演する羽目になったミナレは、自分から50万円を騙し取った元カレの須賀光雄(内藤秀一郎)を「殺してやる!」と叫ぶ。やがてミナレは光雄を包丁で刺殺し、いきなりホラー的展開となっていく……と思いきや、刺殺以降のくだりはミナレがラジオで語ったフィクションだったというオチとなる。ここでは事実と虚構がシームレスに繋がっているのだ。しかも第5話では人気芸人のアナグマ治郎(たきうえ)が元カノに包丁で刺されそうになっている現場にミナレたちがカメラを持って乗り込むし、第7話では引きこもりの青年の義母が血液のこびりついた包丁を見せて息子の殺害をほのめかすも実は嘘だったことがわかる、というように、物騒な包丁のイメージが虚実を超えて反復される。本当も嘘もすべてがミナレのラジオのネタとなっていくという構成は、聴覚情報だけで成り立つラジオというメディアの特性をメタ的に表しているようで、秀逸だ。
第6話ではラジオでの炎上騒動も取り上げられる。炎上を恐れ制作現場が委縮せざるをえない現在、虚実の境界を自由に跳び越え、愛あるトークを思いのままに繰り広げるミナレの姿は、制作現場にとっても一筋の光なのではないだろうか。(岡室美奈子)

核兵器廃絶から遠ざかるG7

テレメンタリー2023
「原爆資料館 閉ざされた40分~検証G7広島サミット~」
6月10日放送/4:50~5:20/広島ホームテレビ

その日、見覚えのあるガラス張りの原爆資料館の建物は白いビニールシートで覆われていた。そぼ降る雨の中、建物に入っていくのはG7広島サミットに出席する各国首脳。彼らは日程の初日にここを訪れた。
記者、カメラマンの同行取材もない非公開行事で、館内滞在約40分間。閉ざされた建物の中で、いったい何が話され、何が行われたのだろう。番組は関係者の証言や独自の取材をもとに検証を重ね、この40分間の内実に鋭く迫っている。
原爆資料館の前館長・志賀賢治さんは、各国の首脳が東館3階に集められたいくつかの展示物を見て説明を受けただけで、本館には行ってないという事実を聞き、「がっかりして、G7に関心をなくした」と呟いた。「本館の展示物を順番に見ていくことで、被爆の実相が理解できるのだが、展示の流れから切り離して、遺品だけを見ても……」と志賀さんは嘆く。
G7開催前、岸田文雄首相は記者団に「さまざまな考えの首脳がいて、時間が限られている。資料館の想いや内容を伝えるには“工夫”が必要だ」と語った。それに対して志賀さんは「何を見せたくなかったのだろうか……」と、その“工夫”を訝るのだった。
広島でのG7こそ、核兵器廃絶を唱えるのに最もふさわしい機会だと誰もが思い、声明には「核廃絶」の言葉が期待されたが、議長国日本の首相にも、各国首脳にも、その考えはなかった。発表された「広島ビジョン」では、核兵器は防衛目的の役割を果たし……という核の抑止力が語られて、期待は裏切られた。
核廃絶を願う多くの人々がこの結果に落胆した。広島県被団協の佐久間邦彦理事長は「G7に向けた要望は何も聞き入れられなかった。非常に残念」と批判し、被爆者であるサーロー節子さんは「誰があの文章を書いたのか、大変な失敗だった」と語気を強めた。
英語が堪能な小倉桂子さんは被爆者代表で各国首脳の資料館見学に同行した。記者団に首脳各氏との対話の印象を聞かれたとき、いつもの明快さがなく、落胆の想いを隠し切れないように見えた。(戸田桂太)

フェイク昭和を遊び倒すスキル

水曜日のダウンタウン
「昭和はむちゃくちゃだった系の映像、全部ウソでもZ世代は気付かない説」
6月21日放送/22:00~22:57/TBSテレビ

攻めた企画を放ち続ける同番組。それゆえ出演芸人のメンタルを深く追い込むドッキリもあり、好みが分かれ物議を醸す企画も多い。だが本作は、昭和世代とZ世代(1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)を取り込んだフォーマットに加え、同番組の持ち味であるきつい毒気が(人ではなく)昭和という時代をいじる方向に向けられたことで、間口が広くナンセンスに満ちた笑いに溢れた。
主旨はウソの昭和を若者に信じ込ませるドッキリだ。企画の土台は2022年8月に放送された特番「ダウンタウンvsZ世代 ヤバい昭和 あり?なし?」(日本テレビ)である。若い世代にはなじみの薄い昭和独特の光景を紹介し、新旧両世代がジェネレーションギャップで盛り上がった。これが好評を博し亜流企画が他局にも広がった。この水ダウもその支流だが意図は別物だ。いわゆる「昭和いじり」番組にウソを加えてドッキリ企画へとアレンジした。
ウソの幕開けは通勤電車の光景。昭和中頃、通勤ラッシュ時はホームが人で埋め尽くされ駅員が乗客を車内に押し込む姿が。この記録映像を入り口に、乗り切れなかった通勤客が電車の屋根に大挙して座り込んだ山手線がホームに到着するという、実にバカバカしいフェイク映像が紹介された。これが何とももっともらしく精巧で、Z世代は疑念を抱きつつも信じる流れに。「校則違反を繰り返すと校舎から宙吊りの罰があった」「大きな建造物を建てる際には生け贄が捧げられていた」などの大ウソを紹介するフェイク画像も虚実ない交ぜでおかしく、制作者を賞賛したい出来だった。
ウソをZ世代に信じさせるため、伊集院光らが巧妙な弁舌でウソに真実味を上塗りしていく。しかも昭和世代はウソの内容を事前に知らされておらず、即興でウソに乗っていく様子もドキドキの見どころに。精巧なフェイク映像。騙されるZ世代。騙す昭和世代。即興のトークスキルとチームワークが試される昭和世代。ウソをめぐって複数の視点で企画が躍動していた。よく練られて結実した傑作回だった。(松田健次)

米軍記録に残された沖縄戦の姿

NHKスペシャル
「“戦い、そして、死んでいく”~沖縄戦 発掘された米軍録音記録~」
6月25日放送/21:00~21:55/日本放送協会

アメリカ議会図書館に残された「海兵隊戦闘記録」の音声資料。激戦地での活動記録のなかに、沖縄戦で約2万5000人を動員した第6海兵師団の30時間に及ぶ録音が残されていた。初めて見つかった音声を軸に、約3カ月に及んだ沖縄の受難を、番組が再構成。現地でリアルタイムに録音された声に米軍側の記録映像を重ね、さらには実写やジオラマによる再現を駆使して「あらゆる地獄を集めた」沖縄戦が再現された。
この録音は、ラジオを通じて米国内に放送するためだった。ただし見つかったワイヤーリール音源は、ほとんどが未編集。理由は明らかに語られないが、たしかに最初は米本土のリビングルームに届けられるような内容だ。沖縄に向かう輸送船の食堂でジャズ演奏に興じる兵士たちの実況。呑気にスタンダード・ナンバー“ハニーサックル・ローズ”に喝采する兵士たちは、その先の運命を知るよしもない。上陸の前夜には、従軍牧師に促され、賛美歌を歌う。
音声のなかで特にフォーカスされるのは、アナウンサー役の“ラジオ通信兵”スタンリー軍曹だ。フロリダ大学では演劇クラブに所属し、在学中に海兵隊に入隊。上陸当初は米軍による住民保護の方針もあり「800人の一般住民を保護した」レポートなどを行っていたが、日本軍のゲリラ戦の激化に、「何と戦っているのかわからない」と不安を語る兵士に同調する。
挿入されるのが、証言者たちのインタビューだ。101歳の元中尉は戦友の死を語り、99歳の元一等兵は女性住民を銃撃したことへの後悔を語る。14人の日本兵と住民を殺した元伍長の息子は、その記憶に苦しんだ父を語り、そして89歳の沖縄女性は集団自決の凄惨さを語る。組織的戦闘終了後の7月、米軍墓地の様子を伝える資料映像のなかにマイクを持つスタンリー軍曹を特定し、番組は終幕に向かう。
タイトルの“戦い、そして、死んでいく”は、音声記録のなかの“勝利のために死んでいく”米兵のヒロイックな表現だ。しかしその「ファイティング・アンド・ダイ」の現実は、あまりに重い。(並木浩一)

★「GALAC」2023年9月号掲載