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【ギャラクシー賞テレビ部門10月度月間賞】-「GALAC」2024年1月号

野島伸司、職人技の物語

「何曜日に生まれたの」
8月6日~10月8日放送/22:00~22:54/朝日放送テレビ

「何曜日に生まれたの」は、フィクションによって救われ、現実へと回帰する者たちのドラマである。野島伸司の脚本らしく、いい意味で作為的な作品だ。
高校時代にサッカー部のエース雨宮純平(YU)のバイク事故に巻き込まれ、以来10年間引きこもっていた黒目すい(飯豊まりえ)は、作家の公文竜炎(溝端淳平)の依頼で小説のモデルとなる。その小説を原作とする漫画で、売れない漫画家の父・丈治(陣内孝則)が起死回生を図ろうとしているからだ。公文や丈治、編集者の来栖久美(シシド・カフカ)らが実はすいの言動を盗聴しているという設定はあざとく見える。しかし最終回で、実は公文は雨宮とすいのバイク事故に遭遇して以来、すいを見守り続けていたことがわかる。すいは公文に導かれて引きこもりから脱出し自ら考えて行動することができるようになる。そして最終話では、すいは盗聴を逆手に取り、幼い頃の虐待のトラウマにより現実から目を背けている公文を、逆にフィクションの力を使って救い出すのである。
最終話のすいの長いモノローグは、絶対的優位に立つ作家・公文によって一方的に語られる対象であったすいが、公文についての物語を語り直してゆくという反転を示している。それは、救われた者が救う者になるという反転でもある。二人は「ここから先はリアルになる」と確認し合い、現実の世界へと踏み出し互いへの愛情を確認する。そして丈治は、公文が考えた物語の結末を、すいが語り直したように書き換えるのである。フィクションを通過することによって実現するこの美しい反転の構造に、ベテラン野島伸司の熟練の職人技が凝縮されていると言えるだろう。
いささか現実離れした設定にリアリティを持たせたのは、野島の台詞の巧さに加えて、飯豊のナチュラルな演技に負うところが大きい。公文を演じた溝端、来栖役のシシド、丈治役の陣内らの好演も光った。最後に、これも野島ドラマらしく、1960年代のザ・ホリーズの名曲『バス・ストップ』がドラマの魅力を際立たせたことを言い添えておきたい。(岡室美奈子)

大泉×さんま×松山千春で200%の面白さ

「リクエストラベル~大泉洋が“あなただけの北の旅”ツアコンしちゃいます~」
10月9日放送/19:30~20:53/日本放送協会

この番組は、北海道ブロックで9月22日に72分の枠で放送された。10月9日放送の83分バージョンでの全国ネット版が受賞対象となった。大泉洋がメインの北海道ツアコン番組、ゲストに明石家さんま、さらにスペシャルゲストは松山千春、加えて語りは大泉洋と交流の深い吉田羊という情報に触れたのが9月初めのことだった。ローカル番組にはこうした「名作」がしばしばある。全国ネット放送を早々に編成したNHKの英断が光る。
明石家さんまは、プロ中のプロだ。彼と大泉が組めば一定の面白さはいわば保証される。その一方で二人とも実は繊細な人でもある。底抜けの面白さが画面に広がるだろうか?と視聴前は少し気にもなっていた。
杞憂だった。大泉の「回す力」に改めて感服したが、早々のラッキー?に恵まれたことが番組を成功に導いた。さんまは、34年前に訪れた安平町にある名馬・テンポイントの墓へ再び行きたいという。だが、さんまが以前手を合わせた墓はテンポイントのものではないことがわかる。本物の墓を前に「これちゃうぞ!」「建て替えたんか? 確認してくれ!」とスタッフに頼むさんまの表情はホンモノだった。
そのハプニングで撮影スケジュールはかなり押したようだ。北海道日本ハムファイターズの新球場へ到着したのは試合直前、グラウンドに入り「清宮~!」と叫ぶさんま、焦る大泉、会釈だけする清宮幸太郎選手。それで十分だった。段取り狂いが、番組の面白さを爆発させた。
エンディングでは、さんまと同い年で旧知の松山千春と再会。場所は松山と縁の深いSTVラジオのスタジオだ。スタジオの時計の針を確認したが、3人は十数分程度しか喋っていない。だが中身はとびきり濃かった。松山は打ち合わせにはなかっただろう生歌まで披露して、軽口を交わした。かと思えばふと「みんな、元気でなぁ」としみじみと漏らした。病気を経験した彼ならではの重みがあった。「怪獣」たちを見事ハンドリングしたスタッフにも拍手だ。(影山貴彦)

若手女優ふたりのハーモニー

夜ドラ
「わたしの一番最悪なともだち」
8月21日~10月12日放送/22:45~23:00/日本放送協会

化粧品業界への就職を目指しながら不採用続きの神戸の大学生・笠松ほたる(蒔田彩珠)は、もう業界最大手の日粧堂に賭けるしかない崖っぷち。連戦連敗でメンタルもやられ、自己否定のなかで心に浮かんできたのが、「あんなふうになりたかった」幼なじみの鍵谷美晴(髙石あかり)の姿だった。小学校からずっと同級生で、立ち居振る舞いも鮮やかな生き方上手の美晴を、ほたるはずっと一方的に意識してきた。ダンス・パフォーマンスが得意で社交的な、自分とはまったく違う彼女のプロフィールをエントリーシートに打ち込むうちに、勢い余って送信してしまう。それが思いもかけない面接の呼び出しに繋がり、ほたるは別人を演じ続けることで内定を得る。
美晴は、家のカギをなくしたといって転がり込んできて居座る、ほたるから見れば天真爛漫で迷惑な友人だ。その「腐れ縁」を断ち切るように就職で上京して3年後、二人は東京で再会。ほたるは現在の仕事がそもそも美晴のなりすましから始まったことを、いやでも思い出さざるを得ない。やがて仕事に挫折したほたるは神戸に戻り、かねてからの相談相手でクリーニング店主の聡美(市川実日子)、なぜかそこでバイトする美晴とともに、もう一度自分を見つめ直していく。
全32回の14回までを充てた神戸での大学生編で、見る者を完全に惹きつけた。就活に悩み鬱屈する主人公は、不機嫌な顔がリアルな存在感をみせる蒔田にうってつけ。是枝裕和作品には欠かせない蒔田が「おかえりモネ」に続き、テレビドラマでも実力を発揮した。
髙石はクセのある個性的な役柄を、どこか憎めないコミカルな味わいで好演している。舞台版『鬼滅の刃』の竈門禰豆子役で注目を浴び、映画『ベイビーわるきゅーれ』で女子高生の殺し屋を演じた“憑依型女優”は、ドラマでも不思議な魅力を発揮した。
みずみずしい才能が引き出され、飽きさせることなく、爽やかなあと口を残す最終回へ。tofubeatsが書き下ろして二人に歌わせた主題歌『メロディ feat.蒔田彩珠 & 髙石あかり』も実にいい。(並木浩一)

自然の摂理に反したOSO18の死

NHKスペシャル
「OSO18“怪物ヒグマ”最期の謎」
10月15日放送/21:00~21:50/日本放送協会

北海道東部で牛を襲い恐れられたヒグマ、OSO18。2022年11月のNHKスペシャルでは、きわめて慎重で警戒心が強くその姿さえはっきりと見たものはいなかった。今回はその続編にあたる。
2023年8月、北海道庁は7月30日に射殺されたヒグマがOSO18と判明したと発表した。横たわっているところを撃たれ、OSO18とわからないまま解体業者に引き渡され処理された。あまりにあっけないOSO18の最期。ハンターのチームのリーダーは、なぜ人前に姿を現し、逃げもせずに撃たれたのか首を傾げた。そして、OSO18の前足が名前の由来である18センチではなく20センチあり、腫れて普通の状態ではないと気づいた。
取材班は6月24日にその年最初の牛を襲ってからのOSO18の足取りを無人カメラの映像記録から探った。7月30日に射殺されるまで、南へ移動しているが、牛は襲ってはいない。ヒグマの生態を研究している学者は、強いオスのヒグマたちとの争いに負けて、移動していたのではないかとみる。だが、残された牙からOSO18の年齢は9歳6カ月で、年老いているとは言えなかった。取材班はさらに解体業者の堆肥場を捜索し、大きなヒグマの腰椎を発見。大学の分析結果からOSO18は4歳から常に肉を食べてきたことがわかった。ヒグマは肉食から安定して手に入る植物を食べるように進化したが、増えすぎて駆除されたエゾシカの肉を食べてその味を覚え、牛を襲うようになったのではないか。ハンターのチームからは、「このままの環境では、肉食を好む第2、第3のOSO18が生まれる」との声が出ていた。自然の摂理に反して体調に異変が生じたヒグマの生涯を粘り強い取材と分析で辿ったドキュメンタリーだ。
番組の最後に「9年6カ月前に1頭のヒグマが生まれた。豊かな森で悠々と暮らす運命があったかもしれない。だが、人間の作り変えた自然の中で、野生を生き抜く力を失った」と、詩的に語りかける國村隼のナレーションが印象的だ。(石田研一)

★「GALAC」2024年1月号掲載