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【ギャラクシー賞テレビ部門1月度月間賞】-「GALAC」2024年4月号

芸術を志す若者が地域を変える

Dearにっぽん「“差別の壁”を越えて~京都・崇仁地区~」
1月7日放送/8:25~8:50/日本放送協会

1880年に前身の画学校が開学した、京都市立芸術大学(京芸)。日本最古の歴史を持つ芸術系大学は昨年10月、京都駅から徒歩5分の崇仁地区に移転した。同地区は長く被差別部落として差別の対象とされてきた歴史を持ち、最盛期には9000人を抱えた人口も、現在は約1500人程度という。いわれない差別に長年苦しめられた人々は、再開発の一環と地域の活性化のために移転してきた大学の学生らに向き合うことになった。音楽学部と美術学部からなる大学は「芸術を学びながら地域と関わる」を方針に掲げた。地区の祭りの伝統的な囃子に参加する、卒業生が喫茶店の看板を製作するなど、交流が始まった姿が紹介される。
美術学部の学生である鳥井さんは、地区の歴史との関わりが深い皮革業の西川さんと交流を持ち、革を素材にした作品づくりに取り組みはじめた。一方、地域の飲食店の情報や歴史、文化を紹介する冊子作りに取り組んできた住民の藤尾さんからは、今も続く差別の実態、地域学習の必要を伝えられた。「知らない地域の魅力を発見し、ワクワクする作品をつくりたい」という思いだけでいいのかと考えた鳥井さんだが、藤尾さんはその気づきを受け止め、彼を励ます。「実際に関わっていろんな話を聞いたり、一緒に何かものづくりをしたり、それが一番の学習」「歴史は別として、この地域と今をもう学習している」。彼女には、自らに向けられた差別から一度は目を背けた過去があり、しかし前を向いて活動する現在がある。「どこで生まれたとか障害があるとか、そういうものを全部なくしてしまうのが芸術の力」だと彼女は語る。
地区が背負ってきた差別の歴史は、目を背けることが許されない重いテーマだ。しかしそれがわかっていても爽やかな希望を抱かせるのが、若きアーティストである京芸生らの姿である。芸術を志す若者たちのどこか世知とは縁遠い無垢さは、差別意識や偏見といった見えない“壁”を越えていける期待を、見る者に抱かせた。淡々としていながら優しい声で語る吉岡里帆のナレーションも、実にいい。(並木浩一)

バラエティが政治問題を伝える意義

ザ!世界仰天ニュース4時間SP
「森友学園問題… 赤木ファイル!命をかけた375日間」
1月9日放送/19:00~23:00/日本テレビ放送網

“森友学園”“国有地売却問題”“公文書の改ざん”……日頃ニュースに接していれば誰もが聞いたことのあるワードだろう。さらに時事問題に関心があれば、公文書改ざんを命じられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんの自死、妻の雅子さんのその後の闘いについての報道にも触れているはずだ。そして、この一連の出来事は「知った人は憤りを覚える問題」であることに論をまたない。知る機会があるか、ないか。
だからこそ、広い視聴者層を持つバラエティ番組でこの問題を取り上げたことに大きな意味があった。年明け間もなくの「4時間SP」では「100kg女子が仰天チェンジ」「衝撃映像満載!」といった番組では馴染みの話題も並ぶなか、「森友学園問題… 赤木ファイル!命をかけた375日間」のタイトルで実質1時間をかけて放送。冒頭では「財務省調査報告書、関係者への取材、赤木俊夫さんが残した手記などを基に再現する」と黒背景の画面に白文字で粛々と映し出された。
公文書改ざんの発端となった2017年2月の安倍晋三首相の「私や妻が関係していたとなれば総理大臣も国会議員も辞める」という国会答弁をはじめ、実際のニュース映像を多用し、森友学園への国有地売却における問題点やものごとの流れを時系列でわかりやすく説明しながら、赤木俊夫さんの身に起きた出来事や妻の雅子さんが経験したことについても、雅子さんのインタビューを交えつつ再現ドラマで詳細に描いた。
20年以上続く「ザ!世界仰天ニュース」ではこれまでも過去の事件を再現する枠はあったが、今回の話は遠い昔のことではなく、視聴者にとってリアルタイムで知っている政治家も絡んだ「今」の話として突きつけられるタイミングでの放送だ。スタジオゲストの若いタレントたちの呆然とした表情や「こんなことが許されるんだ!?」「誰を信用していいかわからない」などの率直なコメントもそれを物語っていた。
放送後にはSNSでも大きな反響があったこの番組、ごく普通の感覚で、この出来事はまさに “仰天ニュース” であることを示してくれた。(永 麻理)

全力投球で子どもたちに大人気!

情熱大陸「小島よしお」
1月21日放送/23:00~23:30/毎日放送

番組後半、母の誕生日を祝う家族での食事会のシーン。小島よしおの父がしみじみと「大したもんだよ、自分の息子ながら」と言った。その言葉を受けた小島の、嬉しさを抑えながら、滲み出た喜びの表情がなんともいえず良かった。ディレクターはよくぞあのカットを押さえたと思う。彼が子どもたちに大人気な理由が少しわかった気がした。
昨年9月、私は自宅近くの商業施設に小島よしおがやってくると聞いて見に行った。特設ステージの周りは満員のお客さんで埋め尽くされていた。15分ほどのステージだったが、その面白さに圧倒された。年齢を超えてみな大喜びだった。数々の芸人を見てきているが、まったく手を抜かない本気モードの姿に心を打たれた。いわゆる「営業」の仕事の場合、流してステージに立つ芸人がいる。小島はまったく逆だ。番組のエンディングで、「(お客さんにとって)自分を見にくるのは、最初で最後かもしれない」と彼は語った。だからこそ常に全力投球しているということだ。
冒頭、「お笑いの才能がない」と言い切っていた小島だが、はたしてそうだろうか。ネタを作ったり大喜利で活躍できる才能がとりわけないと言葉を重ねていたが、お笑いの能力を測る尺度はさまざまだし、その王道は特定のジャンルに限定されるものではないはずだ。彼もまた、お笑い界の真ん中にいる一人だろう。
趣味の悪い「一発屋芸人」という言葉や、「テレビから消えた」と揶揄されたことで、もう一度テレビに出ることを目指した時期もあったという小島だが、子どもたちをターゲットに主戦場を変えたのは大正解だったことが、番組を通してしっかり描かれていた。改めて言うまでもないが、テレビに出る芸人が決して偉いわけではない。テレビ離れが長らく叫ばれる今、そろそろ私たちも見方を多様化すべきときだろう。ちなみに小島は今、海パン姿ではなく服を着て朝日放送テレビの「newsおかえり」に、コメンテーターとしてレギュラー出演している。そちらも申し添えておきたい。(影山貴彦)

劇場型の新しい街ブラ番組

「秋山ロケの地図」
2023年12月26日、2024年1月9日、16日、23日放送/23:06~23:55/テレビ東京

ロバートの秋山竜次が毎回どこかの街を訪れて地元民と交流する、と書くといかにもありがちだが、この番組はひと味もふた味も違う。
まず、ロケをする側が行き先を決めない。前もって地元民に、来てもらいたい場所や会ってもらいたい人を大きな白地図に書き込んでもらう。そしてロケ当日に秋山がそれを見て、面白そうと思ったところに行く。その場所はお店などに限らず、一般家庭でもよい。
その結果、この番組はロケ番組と同時に視聴者参加番組にもなっている。その点がまずユニークだ。
埼玉・東松山編では、「とにかくテレビに出たがっている」という6歳の男の子がいる家を訪ね、その夢を叶えてあげた。特技の披露などではなく、ただテレビが好きで元気いっぱい。弾けるような嬉しさが伝わってくる。また茨城・取手編では、夫が自分の人生を紙芝居にし、それに妻がオカリナでBGMをつけるという年配夫妻の実演を家の玄関先で鑑賞。秋山が「一度も味わったことのない空気」と漏らすほど独特の世界観ながら、夫妻の屈託のなさについ気持ちが和む。
地元民とのセッション的な絡みも大きな見どころだ。なりきり演技で定評のある秋山と地元民が即興的にコラボする“秋山劇場”が随所で繰り広げられる。
取手の牧場でポニーに乗ることになると迷わず上半身裸のロン毛姿になり、いきなり「モンゴルの英雄」「変態将軍」を名乗って地元民たちを寸劇の世界に巻き込む。そうかと思えば、いつも焚き火をやっているという同じ取手の一般家庭に行くと、中学生の息子らとハゲヅラを使ってのボケ合戦を延々とやり出す。
「モヤモヤさまぁ~ず2」を筆頭に、街ブラ番組はテレビ東京の得意分野。その魅力はユルさだ。スタッフが肝心の白地図をロケに忘れてくるなど、この番組も相当ユルい。だが何よりも、秋山とコラボする地元民の姿からは自己表現の喜びがぐいぐい伝わってきて、見ているこちらまで楽しくなる。今、最も旬の芸人と言っていい秋山の力量が遺憾なく発揮された、劇場型の新しい街ブラ番組である。(太田省一)

★「GALAC」2024年4月号掲載