バラエティが描く社会の複雑怪奇
「日本怪奇ルポルタージュ」
4月4日~5月9日放送/25:00~25:30/テレビ東京
「日本怪奇ルポルタージュ」というタイトルから、オカルト風味のおどろおどろしい番組をイメージするかもしれない。しかし、その先入観はいい意味で裏切られる。扱う題材はいじめ問題や、テロ事件に関与した逃亡犯・桐島聡、京都アニメーション放火殺人事件の犯人の火傷治療にあたった医師を深掘りするなど重くシリアス。「ルポ散歩」と題された企画では、芸人のZAZYや平成ノブシコブシ・徳井健太が、散歩をしながら壮絶な子ども時代を淡々と回想していく。
前者は、父親からナイフを突きつけられながら勉強をしていたという教育虐待の経験を、後者は母親が重度の統合失調症になったため中学1年生の頃から母や歳の離れた妹を世話するヤングケアラーだったことを明かした。「気がついたら当たり前のことだったので、大変だとは思ってない」「本能みたいなもので、責任感や愛があったわけではなくやってました」といった徳井の言葉は、ヤングケアラーの典型的な思考だとさまざまなドキュメンタリーで知ってはいたが、彼のこれまでの言動を知っていると、それが決して強がりでもなんでもないことがよくわかる。そうした思考のため、表面化しにくい問題の深刻さを生々しく実感するのだ。「助けるのは不可能」と言う本人の言葉が重い。
MCはテレビプロデューサーの佐久間宣行。ゲストには呂布カルマやダウ90000の蓮見翔、ロックバンド・ニガミ17才の平沢あくびや乃木坂46の久保史緒里といった、多くのバラエティ番組とは一味違うキャスティング。番組全体のデザインも独特だ。スタジオは東京の外れにあるという薄暗い倉庫。通常、再現VTRが流れるような箇所は、コンピュータゲーム風のドット絵で表現されている。ドット絵ならではの省略されたイメージと最小限の動きが逆に想像力を掻き立てる。
バラエティ番組という体裁で、新鮮なビジュアルを使って惹きつけ間口を広げ、複雑怪奇な人間の心理や社会問題を丁寧に描いていた。(戸部田誠)
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重度知的障害者を見捨てる厚労省
テレメンタリー2024「行き場のない障害者~入所施設 定員削減の陰で~」
5月11日放送/4:50~5:20/朝日放送テレビ
「考えたら発狂しそう」。重度の知的障害者である息子を一人で介助する79歳の母親はそう述べる。母親は心臓の病を抱え、息子が安心して暮らせる住まいを探し続けているが見つからない。
最重度の知的障害者が暮らす大阪の入所施設、山直ホーム。そこでは、支えるのがきわめて難しい40人の障害者が介助を受けている。40のベッドは常に満床で、100人以上が受け入れを待っている。さらにショートステイ用の10床もすべて埋まり、そこに半年以上とどまっている人も4人いる。本作では、入所者の死亡によって空いた1床を、待機者123人のリストの中から選ばなければならない職員の苦悩が映される。「順位を決めて入所を決めないといけないが、名簿を見たらみんな1位」「悪くはなっても改善するケースはない」と職員は嘆く。結局ショートステイ者のなかから身寄りのない46歳の女性が選ばれた。
なぜ今、障害者施設の受け入れでこのような逼迫した状態が生じているのか。そこで見えてきたのは、現場の実態と乖離した国の施策であった。厚生労働省は、「地域社会で他の人々と共生することを妨げられないこと」を基本理念として掲げ、これに基づき入所施設などから地域生活への移行を推進、入所施設の定員が削減されてきた。施設入所者はこの20年間で2万人以上(約14%以上)減少。一方で、地域社会での受け入れ側である小規模なグループホームは、入居者4〜5人に介助者1人の体制で、重度の知的障害者を介助できるような場所ではない。その結果、行き場を失った障害者が施設の待機者となり増加しているのだ。山直ホームの施設長らは、実態を伝えるために厚労省へ行くが、厚労省は地域移行と施設縮小の方針を変えようとしない。さらに国は、3年後の春までに施設入所者数を5%削減するという。
ディレクターは、長年障害者施設の取材を続けている西村美智子(「シリーズ老障介護」で第58回報道活動部門優秀賞)。施設の取材から見えてきた問題を追及した熱意あるドキュメンタリーだ。(樋口喜昭)
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バーチャル世界のピュアな恋
夜ドラ「VRおじさんの初恋」
4月1日~5月23日放送/22:45~23:00/日本放送協会
仕事に身が入らず、年下の上司に希望退職を勧奨される中年サラリーマン直樹(野間口徹)が主人公。彼の安らぎは、仮想世界を体感するゲーム「トワイライト」内のメタバース空間で、制服女子ナオキ(倉沢杏菜)を生きることだ。半年後のゲームのサービス終了を前にナオキは天真爛漫な美少女ホナミ(井桁弘恵)と出会い、案内するうちに魅かれていく。直樹はホナミのことを知りたい衝動を抑えられず、ハッキングで現実世界の住所を突き止める。訪れた先にいたのは、豪邸に独居する老人・穂波(坂東彌十郎)だった。
「アバターの実写化」というまさに今日的な演出により描かれた、二層構造のドラマ。夢が現実に裏切られることはよくあることだが、裏と表のように“リアル”と“バーチャルリアリティ”が同時進行するこの物語のファンタジーはそう簡単には終わらない。アバターのホナミは、リアルの直樹が想いを寄せる初恋の相手にほかならない。その恋はホナミとナオキという仮想の美少女同士のカップルに仮託され、二人は“隠しワールド”への旅を開始する。一方の現実世界での穂波と直樹も知り合い交流することで、実体とアバターの二重の主体を持つ二人による、2×2の絡み合う関係が交錯する。直樹は病で余命いくばくもない穂波とその娘・飛鳥(田中麗奈)との争いを、孫の葵(柊木陽太)とともに解きほぐそうと試みる。
葵のアバター・アオイ(井上音生)も含めた美少女3人と、現実世界の子ども・中年・老人の男3人。性別を反転させたバーチャル世界でのストーリーを演じる3次元の身体を得たアバターは、リアル側での登場人物の心象を束縛されることなく表現する。ホナミとナオキのキスシーンが女子と女子、本当は男性同士ながら倒錯的でもなく、むしろ切なく、身体を持たない者同士の恋のピュアさを伝えてくる。一つのVR空間の終焉に恋と命の終わりを重ねながら、その永遠を示唆するエンディングも心地よい。俳優・野間口にとっては、50歳にして代表作。倉沢は20歳前で掴んだチャンスを見事に生かした。(並木浩一)
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障害者テーマに挑む制作者たちの結束
土曜ドラマ「パーセント」
5月11日~6月1日放送/22:00~22:50/日本放送協会
舞台はローカルテレビ局「Pテレ」。吉澤未来(伊藤万理華)は、ドラマ制作を夢見つつ忙しい日々を送る若きテレビ局員だ。自身が書いた学園ドラマの企画書が通り、プロデューサーに抜擢される。だが、いきなり上司から「多様性月間キャンペーン」の一環として主人公を障害者へ改変するよう求められるなど、安堵する暇はない。
車椅子の高校生・宮島ハル(和合由依)にヒロイン役を依頼するが、「障害を利用されるのは嫌!」と、にべもなく断られる。やがて未来の熱意を受け止めたハルは、出演を快諾し撮影が始まる。未来もハルも自らの未熟さを痛感しながら、仲間たちの支えもあり徐々に成長する。そのわずかな変化がいい。伊藤の、頼りなさから脱皮する過程での感情の表出が光った。和合は2021年、東京パラリンピック開会式で「片翼の小さな飛行機」として見事なパフォーマンスを披露したが、本作でも堂々の演技だ。
今回大いに評価すべきは、作り手たちの姿勢だろう。テレビの世界で等身大に扱ってきたとは言い切れぬ障害者のテーマを正面から描いた。プロデューサーの一人である南野彩子は、かつてマイノリティをテーマにしたバラエティ番組「バリバラ」(NHK Eテレ)を担当している。その経験が今回生きた。タイトルの「パーセント」は、比率で語り切れぬものがあるというメッセージだ。人と人はわかり合えないが、「わかり合いたいからぶつかる」とした、安直でない着地には説得力があった。
秀作に疑いないが、あと1話欲しかった(全4話)とも感じ、3話と4話の演出を担当したNHK大阪局の押田友太に聞いてみた。「それ、制作チームもみんな思っています」と笑いつつ、「いろんな要素が入ってきて、それをチームで取り入れていくという姿勢で臨みました。粗削りでも伝えたいことは伝えるというスタンスでしたので、何か伝わっていたら嬉しいと思います」と、制作陣の結束の強さを象徴する頼もしい答えが返ってきた。(影山貴彦)
★「GALAC」2024年8月号掲載