時空を超えたクイズのコラボ
サンバリュ「クイズタイムリープ」
8月11日放送/14:00~15:00/日本テレビ放送網
ドラマではたびたび使われてきたタイムリープという手法がバラエティで実現。過去のクイズ番組の映像に現代のタレントを登場させ、当時の出演者と競い合うという、時空を超えたコラボを見せてくれた。
「クイズ世界はSHOWbyショーバイ!!」(1988~96)では当時の解答者だった山城新伍、ジャイアント馬場らに並んで、現代から霜降り明星・せいやが解答席に加わった。別出演者の映像にせいやの姿を上書きして合成したのだ。せいやが過去の番組に恐縮しながら現れ、当時の出演者たちと並んで懸命にクイズに挑む姿がシュールでおかしかった。「マジカル頭脳パワー!!」(1990~99)では若き日の所ジョージたちに並び、劇団ひとりやヒコロヒーらがクイズに挑み一喜一憂。過去のクイズとはいえ未来から来た側にアドバンテージがあるわけではない。「超瞬間お手上げクイズ」「あるなしクイズ」など懐かしい問題も変わらぬ難しさと面白さがあり、良質のクイズフォーマットが容易には古びないことを示した。クイズ番組はタイムリープとの相性がいいという発見だった。
そして改めて本作を支えたのは最新技術の活用である。映像では過去と現代に生じる画質の差をアナログ的な粗さに整えることで、タイムリープした画面の雰囲気をうまく醸した。音声ではAIによる生成技術で過去の司会者たちに新たな台詞を喋らせ、現代のタレントとのからみを随所で成立させた。せいやが令和の人気女優・浜辺美波の名前を挙げた場面で、浜辺の存在を知る由もない過去の板東英二が「どなたですか?」と戸惑って返答したシーンはその妙味が光った。
映像と音声、さらなる理想を追求すれば改良の余地が多々あることも確かだ。だが、まずは今回のトライによって過去のクイズ番組のアーカイブ活用という新たな可能性を切り拓き、未来に向けて意義ある前進を見せたことが大きい。その制作過程で映像のセレクトや細やかな編集作業などかなりの手間があったことも察せられる。労力を費やし意欲的な番組の実現に携わったスタッフを讃えたい。(松田健次)
●
戦争を「語り継ぐ力」を示したドラマ
特集ドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」
8月15日放送/22:00~23:15/日本放送協会
「お地蔵さん」感が半端ないのである。冒頭で、小沢拓人(中須翔真)ら小学生の戦争ごっこを見つめる、神社の老管理人・田中さん(岸部一徳)の無表情な顔つきのことだ。そのとき田中さんの脳裏には、軍国少年だった頃の記憶が蘇っていたのだが、それはひっそりと生きる田中さんが心に秘めてきた苦い記憶でしかなく、口を噤んできた70年の歴史が田中さんをお地蔵さんにしてしまったのである。ところが田中さんはなぜか少年たちに話しかける。無邪気に戦争ごっこに興じる小学生を見て、やむにやまれぬ思いに突き動かされたのではないか。ここから物語が動き出す。
拓人らは、スケボーに乗ろうとして転んで骨折した田中さんの世話をするうち、1枚の古い写真をきっかけに、田中さんの戦争の話を聞く。その街では空襲で23人が亡くなった。「少ない」と少年たちは思うが、その中に田中さんの母と妹が含まれていたことを知り、さらに田中さんの脚に残るやけどの痕を目にして、自分たちとは無関係だと思っていた単なる数字がいきなり具体性を伴って立ち上がってくる。夏祭りの夜、自治会の大人たちが田中さんの悪口を言うのを聞いて、拓人らは田中さんのことを知ってほしいと考え、講演会を思い立つ。
「戦争が終わって一人になって、僕は自分の頭で考えて、自分が正しいと思うことをしようと決めました。人間としてどう振る舞うのがいいのか、一生懸命考えました。それが、人として生まれてきた意味やと思うからです」と真摯に語る田中さんの言葉は私たちの胸を打つ。しかし本作の良さは、それだけではない。少年たちと心を通わせることで、田中さんが心に秘めてきた思いを初めて口にし、さらに自らの語りによって「一生懸命考え」てきたことを掘り起こし言葉にしてゆくプロセス自体が、美しいのである。拓人も田中さんの語りに触れてやがて自らも語り部となっていく。〈語りの力〉への信頼が、ここにはある。戦争を語り継ぐこと――その意味と重みをこれほど豊かに伝えてくれたドラマがあっただろうか。(岡室美奈子)
●
写真に残された史実の重さ
NHKスペシャル「グランパの戦争~従軍写真家が遺した1千枚~」
8月16日放送/22:30~23:20/日本放送協会
大戦中に米軍の従軍カメラマンとして硫黄島の激戦に加わり、終戦直後にはそのまま進駐米軍とともに敗戦国日本に入って、たくさんの写真を撮っていたというブルース・エルカス。その孫娘にして自らも写真家として活動するマリアン・イングルビーという女性が、祖父が戦時下で撮影し私的に保管していた1000枚の写真を受け取ったことから、それを基に、今は亡き祖父があの戦争のなかで何を見聞きし、何を考えていたかを探ろうと試みる。番組は、彼女が今年5月、調査のために来日し、さまざまな人たちと祖父の写真について語り合う姿を中心に進められていく。
硫黄島でエルカスが大量に撮っていた、「官製チェック」のかかっていない戦場画像はあまりの残酷悲惨さに思わず息を呑まされるが、一方で淡々とした兵士たちの日常風景も混在していて、そこには戦争の持つ不条理、矛盾が確かに露わになっている。
しかし、それ以上に大きく驚かされ目を見張らされるのは、これまでほとんど公的に開示されたことのない、敗戦日本における性的慰安施設のスナップ写真群であった。進駐軍米兵向けの慰安施設内で撮られたと思われるその写真には、米兵にからんで妖しく笑う裸の日本女性の姿があり、その生々しい猥雑さと生臭さに、何とも言い得ない無常感に襲われてしまう。
しかもこの「特殊慰安施設協会」=RAAなるものは、中国戦線における日本兵の暴虐と同様、進駐軍米兵が日本国内で強姦や性暴力を犯すだろうことを強く恐れた日本政府の手によって大慌てで設置され、その施設運営管理もどうやら日米共同で行っていたらしい、という史実にさらに茫然とさせられる。
ある日本人有識者がこの写真を「不快」だと発言するのだが、それは恐らくエルカスの撮影行為に対しての反発かと思う。確かに、彼の撮影は単に個人的な悦楽欲求によるものだったのかもしれない。しかしこの無残な情景を、ただ「侮蔑的」として目を背けているわけにはいくまい。この貴重な写真が突きつけてくる、その意味を重く受け止め直さねば。(西畠泰三)
●
人々を異常にした「特攻」という麻薬
NHKスペシャル「“一億特攻”への道~隊員4000人 生と死の記録~」
8月17日放送/21:00~22:15/日本放送協会 NHKエンタープライズ
特攻について何段階も深く知るための貴重な情報が詰まった、重要な番組だった。視聴後、これまでの自身の理解が表面上にとどまっていたことを痛感した。特に驚いたのは、実態に迫る極秘文書として提示された、隊員選別リストの存在だ。航空隊が「熱望」「望」「否」と志願度を調査し、海軍省に提出した資料である。「否」と書きづらい圧力や、「熱望」の回答者から成績優秀者は除外される線引きなどに言及され、軍の残酷で身勝手な判断が鮮明に浮かび上がる。
軍が「一撃講和」の発想のもとで特攻を正当化し、戦意を保つための精神論に社会全体が誘導される過程も映し出される。ニュース映像や新聞、ラジオが特攻を美談として報じ、“一億特攻”がスローガンとなる。婦人向け雑誌に隊員のグラビアが掲載される。それらに呼応する形で、押し寄せる弔問客や、特攻を称え教え子を戦地に送り出す教師たち。しだいに人々が熱狂し、「麻薬のような」心理状態に陥る過程に言葉を失う。
特攻をめぐる情報や感情が渦巻いて肥大化し、戦争に対する批判や反抗を覆い隠しながら、そこに「希望」が見出され、社会全体が異常な空気に飲み込まれていく。この様子は、「新しい戦前」とも言われる現代を生きるわれわれにとって、けっして他人事ではない。このような過ちを二度と繰り返してはならないというメッセージが番組全体に通底していると感じた。15年もの間にわたり約4000人の名簿をもとに、膨大な情報の取材を続け、数多くの事実を掘り起こしたディレクターの姿勢に感服する。
NHKアーカイブスのサイトでは、本番組で使用された航空特攻の戦死者のデータが、故郷を地図上に表示する形で公開されている。情報が可視化されることで、これだけ多くの命が奪われたという衝撃が改めて浮き彫りになると同時に、ここに示された若者一人ひとりの人生の前途が絶たれたという事実がより重くのしかかる。重要な取材内容のアーカイブ化は意義深く、多メディアを活用した報道の形として、今後もさまざまな方法での展開が期待される。(柳川素子)
★「GALAC」2024年11月号掲載