オリジナルコンテンツ

【ギャラクシー賞テレビ部門1月度月間賞】-「GALAC」2022年4月号

Nスペが伝えた台湾有事の可能性

NHKスぺシャル
「台湾海峡で何が~米中“新冷戦”と日本~」
12月26日放送/21:00~21:50/日本放送協会

台湾海峡での米中の軍事的なせめぎあいが激化している。台湾の防空識別圏への中国機の侵入が増加し、スクランブル発進が相次いでいる。その背景には、中国とアメリカとの軍事バランスの変化がある。中国の国防予算は約20兆円とこの20年で10倍近くに膨れ上がった。アメリカの議会報告書は「軍事バランスが大きく変わり、抑止力が危険なまでに低下している」と指摘。前の米インド太平洋司令官は議会で「今後6年以内に脅威は明白になる」と証言した。
アメリカは、イギリス、日本など同盟国との共同訓練を実施し、中国もロシアの艦艇と連携するなどお互いに牽制を続けている。対立の激化で日本にも深刻な影響が出始めている。台湾からわずか100kmの与那国島では漁業区域が制限され、西日本では米軍戦闘機がたびたび低空飛行している。東シナ海では、自衛隊の補給艦が米軍艦艇へ平時から補給を行うなど日本の役割が増加している。
昨年8月、元官僚、元自衛隊幹部、国会議員が参加して、台湾有事のシミュレーションが行われた。事態が刻々変化するなかで、自衛隊はどこまで活動ができるのかが議論されたが、明確な結論は出なかった。また、住民の避難をどうするのかも議論になった。一方、自衛隊は昨年、北海道旭川の第2師団を南西諸島防衛のため2000km移動するという大規模な演習を行った。昨年11月の米中首脳会談でも、台湾をめぐって双方の主張は相容れず、元中国大使のウィンストン・ロード氏は「予測するのは難しい。事故や誤算が起こる可能性がある」と危険を訴える。シミュレーションの後、元外務省幹部は「こうしたシナリオに入ったら、勝者は誰もいない。ある意味負けだ。平時の抑止が一番大事だ」と語ったのが現状を象徴していると思った。
アメリカと中国が衝突し、日本が巻き込まれる事態となれば、世界の政治、経済に与える影響は計り知れない。番組は台湾、中国、アメリカそして日本の動きを多角的に描き、台湾海峡をめぐって深まる危機への対処を強く訴えている。(石田研一)

大悟の優しさに癒やされるユル企画

「ヤギと大悟」
12月28日放送/13:30~15:00/テレビ東京 SION

テレビ東京が得意とするシンプルでユルい企画。その極みを見たような番組だった。雑草で困っている人を助けるため、大悟がヤギを連れて埼玉県で唯一の村「東秩父村」を散歩し、雑草を食べさせる。ただそれだけの番組だ。タイトルで「ヤギ」が先に来ているように、ヤギが主役というのもいい。番組の趣旨を聞いて大悟も「昔話か」と静かに笑う。
そんなユルさのなかであらわとなったのは、大悟の人としての魅力だ。普段は今時珍しい昔気質の芸人といった感じで、酒とタバコと女性を愛するぶっきらぼうでヤンチャな男というのがパブリックイメージだろう。だが、この番組では最初から力が抜けていて自然体。「ステキな名前のつけ方するか。お前と出会って最初に見つけたお花の名前をつけましょう」と、ヤギを「タンポポ」(途中から「ポポ」と略される)と名づけるロマンチストな一面も。何より際立ったのが、ヤギに対しても出会った人に対しても距離感が絶妙で、優しさに溢れているという部分だ。ポポにみかんを食べさせるときにさりげなく「農薬ついてない?」と確認する気遣いを見せたり、大悟ファンの年配の女性が「いつ死んでも悔いがない」と言うと、即座に「そんなこと言うなや」と返したりする。クジャクを飼っている家に寄り、クジャクにエサなどをやっていると、離れたところに繋がれたポポが「メェ~」と寂しそうに鳴く。すると大悟はすぐにポポのもとに駆けつけ「ワシがクジャクと遊んでたから嫉妬したか。可愛いとこあるやん……」と背中をなでるのだ。最初はわれ関せずといった感じだったポポも、すっかり大悟に懐いている様子だった。すぐに眠そうになる姿、一発芸のように前足のヒジをつく姿など、ポポの一挙手一投足も可愛らしくて癒やされる。
満腹になったらロケ終了というルール。その判断は難しいと思われたが、次の場所に行こうとするも座り込み、誰が見てもお腹いっぱいだとわかるポポの様子もたまらなかった。年末特番にピッタリのユルさのなかに大悟が愛される理由が詰まっていた。(戸部田誠)

119番通報の向こう側のドラマ

「エマージェンシーコール~緊急通報指令室~」
1月13日放送/22:30~23:00/日本放送協会

119番通報の切迫した音声、そして淡々としかし沈着に応える指令を出す人々。まったくそれだけの番組である。海外フォーマットのものだが、社会の現在形を見せる力は強い。ちょっと出かけた間に父親が倒れ、慌てふためく女性に心臓マッサージを指示。ともに「いち、に、さん、し……」と数を数えながら何度も父を呼ぶ娘さんのその声は、映像がないだけ、より沈痛で心に迫ってくる。
緊急通報の音声とオペレーターの姿の映像のみで綴るドキュメンタリー。絶え間なく寄せられる通報と音声だけの僅かな情報から最適な対処を冷静に判断してゆくオペレーターの緊張感がよくわかる。なおかつ「救急隊が到着するまでの」仕事。彼らは結果を知ることもなく、すぐにまた次の通報を処理してゆくのである。その業務の過酷さと切なさとには、本当に頭が下がる。この様相を番組で見れば、「猫がうるさい」くらいで緊急通報する人も減るのではないかとナイーブに思うし、税金はこういう方々のために払いたいものだと、これまたナイーブに思えてしまう。
番組はナレーションも音楽もなく淡々と続く。時折挟みこまれるオペレーターのお弁当風景は、ホッとするよりむしろ、なおいっそう、最前線での業務の厳しさを際立たせる。
そんな彼らの「救急ではなく福祉の通報が増えてきている」という言葉にハッとさせられる。お酒に依存してしまっているであろう在日外国人の女性のたび重なる通報。このコロナ禍で何があったのか、ほかに頼るところもなく119番へと向かったのだろうと想像できるが、今、私たちの社会が抱えている大きな問題の入り口がまさにここにあるのだろう。
そんな現代日本社会のゲートキーパーとして日夜、最前線で立ち向かうオペレーターの姿を捉えたところに、この番組の大きな意義があると言える。今回は横浜市消防局のさまざまなドラマであったが、地域を変え、また角度も変えて、さまざまな現実を照射するパワフルな番組シリーズとなってほしい。(兼高聖雄)

新たな健康被害生むプラスチック

ドキュメンタリー「解放区」
「魔法の素材が舞う~プラスチック大気汚染~」
1月16日放送/25:23~26:23/RKB毎日放送

廃棄されたプラスチックゴミによる海の環境汚染が大きな問題になってから久しいが、この番組が取り上げたのは紫外線や雨などで細かく粉砕されて大気中に漂っているマイクロプラスチックの問題である。肉眼では見えないほど小さなプラスチックの粒は、呼吸によって体内に入り込む。健康被害や新たな環境汚染への懸念が地球規模で拡がっているという。
多角的な視点で最新の調査や研究の成果を示し、プラスチック大気汚染問題に迫っているが、以前から取り組んできた取材であることがうかがえる(2020年5月放送の同じテーマの番組は第58回上期ギャラクシー賞に応募されたが、惜しくも入賞は逃している)。
継続されている富士山頂観測所や新宿のビルの屋上での大気環境調査の研究が大気中に飛散するプラスチックの現実を明らかにしつつある。呼吸を通じて肺に入ったマイクロプラスチックがアスベスト被害と同様に肺がん、中皮腫を発症するという人体への影響も指摘されている。
今や、便利で安価なプラスチックのない生活は考えられない。放っておけば、この「魔法の素材」の廃棄物で地球は埋め尽くされてしまう。分解して自然に循環させる「生分解性プラスチック」の研究やプラスチックから油をつくる技術なども開発されているが、手間もコストもかさみ、実用化には遠い。
福岡工業大学の永淵修博士は真冬の九州山地で樹氷の氷を採取して、そこに含まれるマイクロプラスチックの量を調べる調査を続けている。冬の間、偏西風が中国大陸の上空を通過して九州山地に吹きつけるのだが、2019年12月の調査で、1ℓの氷に1万粒以上の粒子が含まれていたものが、ひと月後の20年1月~2月には5000粒に減っていたという。半減である。粒子が急に減少したのはなぜだろうか。
中国ではコロナウイルス感染のピークで、社会活動が厳しく制限された時期である。都市封鎖がマイクロプラスチックの飛散を減らしたというのなら、それは皮肉でもあり、同時に示唆的でもある。(戸田桂太)

★「GALAC」2022年4月号掲載