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【座談会】2020年冬ドラマを語る!

放懇公式ホームページオリジナル記事「座談会」第3弾

ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2020年冬ドラマの感想と見どころを幅広く語りました。

視聴者待望の“THE”大河ドラマ

T:さて、今クールのドラマもスタートしてしばらく経ちました。各ドラマについて語っていきましょう。思いがけず注目が集まった大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK)からいきましょうか。
K:初回視聴率19%超え。色々あって2週遅れでスタートした影響もあるだろうけど、これは多くの視聴者が戦国を舞台にしたTHE大河ドラマを待望していた表れだと思う。自分もその一人。タイトルバックの荘厳なテーマ曲、久しぶりの迫力満点の合戦シーンに高揚した。
T:本当にそう思う。出だしからドローンで撮影した田園風景の雄大な映像に圧倒されたし、何よりも合戦のシーンが本格的で、久しぶりに大河らしい大河になっている。
O:明智光秀という、世の判官びいきたちが目覚め、奮い立ちそうなキャラクターを主人公に持ってきたセンスを買いたい。信長との確執がどのように料理されるのか、池端俊策の脚本にも期待が高まる。
H:やっぱりみんな戦国時代が好き。もう何回も同じ時代が描かれているはずなのに、信長と言われると気になってしまう。その中で明智光秀の視点で、その時代がどう描かれるのか、謎に包まれているとされる部分をどう成立させていくのか、久しぶりに年間を通して見たいと思った。
I:大河ドラマらしく錚々たる役者が揃っているのも見どころ。主人公の末路を知っているだけに、どんな最期になるのか見守っていきたい。
T:まだまだ序盤なのに、斎藤道三役の本木雅弘の存在感はすごかった。
H:でも、一部衣装がカラフルすぎると批判もあった。正直、個人的にはまったく気にならなかったし、むしろ良かったとさえ思ったんですが。
N:衣装の色鮮やかさは賛否あるようだけど、私は明るくて良いと思う。ドラマもメリハリが効いていて入りやすく、今後が楽しみ。
O:色鮮やかな庶民の衣装もフィクションの楽しさの一部かな、と。

大映テレビ制作ならではの演出に期待

T:次は前クール「グランメゾン東京」の枠。「テセウスの船」(TBS系)はどうでしょうか。
S:「グランメゾン東京」とは真逆テイスト。雪の寒村に渦巻く悪意が大きなスケールで描かれている。犯罪加害者家族という心の傷を抱え、時空を超えて凄惨な事件を回避しようと奔走する主人公(竹内涼真)。その思いがなかなか報われないのが切ない。
K:竹内涼真は初主演ということで、芝居にも熱が入っている。ファーストシーンが崖から始まり、突然の吹雪に襲われたと思ったら平成元年にタイムスリップという力技の展開に初回から驚かされた。
R:確かに展開の速さには驚いた。全編を通じて父が犯人かどうかを探っていくのかと思っていたが、一話目で父はおそらく無実?であることがわかってしまう。
K:クレジットで制作が大映テレビだと知り、展開の速さも妙に納得(笑)。
S:そう。見ていても、疑心暗鬼のぶつかり合いがやけにエモーショナルなのは、大映テレビの伝統なのかな。
T:確かに主人公の優柔不断な言動にじれったさを感じているが、これぞ大映テレビの持ち味だと思う。きっと最後までこのもどかしさは消えることはないでしょう(笑)。
K:令和の時代にある意味こうした演出はドラマ的レガシーとして大切なのかも…。子どもの頃に大映テレビを見ていた世代としては懐かしくも感じる。
N:雪中ロケなど苦労も多そうだけど、日曜劇場らしくしっかり作られている感じ。翌日からの仕事を控えた日曜夜のドラマとして、暗い話は嫌だという意見を聞くけれど、私は最後のカタルシスを期待したい。
R:タイムスリップがストーリーに与える影響がやや先読みできてしまうが、それでも次も見たくなる。
H:タイムスリップものの宿命として、過去を変えても未来は変わらないのか、それとも過去はもう変えられないのか。いくつかのパターンに陥りがち。その予想をどう裏切っていくのか。完成度が高いだけに注目したい。ひとつだけ気になったのは、榮倉奈々の老けメイク。あれは違和感しかなかった(笑)。

乱立した医療ドラマ、それぞれの特色を分析

T:今期は医療ドラマがすごく多いことも話題になっているがそれぞれどうでしょう。
K:「アライブ がん専門医のカルテ」(フジテレビ系)は腫瘍内科医の松下奈緒と外科医役の木村佳乃の2人が医療現場でタッグを組み、患者の治療と向き合うなかで死生観や医療観を描いていくドラマ。実は主人公・心(松下)の夫のオペに薫(木村)が医療ミスを犯しているという過去があり、その真相をジャーナリストに追われるという展開や薫自身が“がんサバイバー”であるという設定など今後このあたりの伏線がどのように昇華されていくかが期待。
Y:最も注目していた作品。作品内で、がん診療・治療のあり方や病院・医師の役割などが丁寧に説明され、現在進行形のがん治療のさまざまな実情が映し出される。監修に、SNS等を通じて積極的に医療情報を発信している専門医など複数の有識者が名を連ね、現場に即した情報の信頼性が担保されている点は特筆すべき。ネット上に多種多様な(場合によっては誤った)医療情報があふれ、センセーショナルな表現ゆえに実態に則しないシーンが放送され実務者から指摘されるような医療ドラマもあるなかで、がん患者やその家族の道標となりうる質の高いドラマだと思う。
K:第3話のラストでほぼ植物状態にあった心の夫が息を引き取り、第4話はそれを受けてPTSD(心的外傷後ストレス障害)とどう向き合うかという内容だったが、ちょうどNHKで放送されている「心の傷を癒すということ」も25年前の阪神・淡路大震災が起きた兵庫を舞台にしたドラマで、同じくPTSDについて触れていた。
I:クールが始まったときには「なんで医療ドラマばかり?」と感じていたけど、話が少し進んだ今、それぞれの特色が出てきている。
R:「心の傷を癒すということ」(NHK)第2回には、震災によるさまざまな精神的苦痛の存在とそれを和らげるための精神科医の対応が、とても丁寧に描かれていた。在日朝鮮人という背景から自分の立場や進学を悩む主人公は、父との関係にも大きな悩みを抱えている。自分がやりたいことを見つけ出し成長する青年の姿を在日朝鮮人、阪神・淡路大震災、精神科医というさまざまな要素を含めながら、しっかりと作られたドラマだと思う。
I:主人公を演じる柄本佑もいい味を出している。
K:「病室で念仏を唱えないでください」(TBS系)は漫画原作のドラマ。主人公の僧侶兼救命救急医(役名:松本照円)を伊藤英明が演じる。念仏を毅然と唱える設定が非現実、摩訶不思議で面白いが、医療現場で主人公が仏のような絶対的な力を持っているわけではもちろんない。むしろ逆で、照円は30年前に川で友人を亡くした過去があり、仏門にもその事件がきっかけで入っている。つまり、毅然とした佇まいの裏側に弱さを抱えて救命の現場に立っている人物と見れば、少し見え方が変わってくる。2話分を見る限り、救急救命の場面を通じて一緒に生死を考えさせられる点が多く、他の登場人物たちのキャラクターも面白い。特に味があるのがムロツヨシ演じるエリート心臓外科医の濱田達也。ホットな照円とクールな濱田がどんなドラマを展開していくかも見どころ。
I:「トップナイフ−天才脳外科医の条件−」(日本テレビ系)は、主人公を含む3人の脳外科医が、それぞれの闇を抱えながら難しい脳の病気と闘うストーリー。天海祐希も、椎名桔平も、永山絢斗も、一面的ではない役柄を巧みに演じていて、それぞれの闇が解き明かされていくのがこれから楽しみ。患者の口調が急に関西弁になった「外国語様アクセント症候群」や、自分を死人だと思いこむ「コタール症候群」など、まったく知らなかった脳の病気が紹介されるのも興味深い。ただ、最後のダンスは「逃げ恥」の二匹目のドジョウを狙った感が…(笑)。
H:医療ドラマの中でもラブコメにもカテゴリされるのが「恋は続くよどこまでも」(TBS系)。「義母と娘のブルース」を想起させる演出だけど、やっぱり心地いい。医療ドラマはどうしても人の生死が関わるため、重くなりがち。それをコミカルに、それでいて患者さんや病気と向き合う姿勢もきちんと描かれている。初回に出てきた「医者は“病”をみて、看護師は“人”をみる」がテーマとしてきちんと立っている。
I:安心して見られるのが嬉しい。医師の佐藤健と看護師の上白石萌音は、限りなく近づくけれど結ばれるところまでは描かれない…と今から最終回を予想してしまうけど(笑)。
H:勇者は魔王を退治するのがRPGの基本なので、やっぱり最後は魔王は落ちちゃうんじゃないかな。そして世界に平和が訪れる(笑)。それにしても、上白石萌音は本当にいいキャスティング。役柄も相まって、どんどん可愛く見えてくる。あの役を例えば、どうみても美人みたいな人がやったら台無し。彼女はすごくいい女優さんだと思った。
R:確かにコミカルかつライトで、メッセージ性のあるドラマに、上白石萌音はよく合っている。肩肘張らないで楽しく見られる。ただ、漫画的イケメンをあまりにも意識しすぎる佐藤健の演技が少し気になり笑ってしまうこともあった(笑)。
I:「病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~」(テレビ東京系)は病院が舞台だけど、ドラマBiz枠らしく、ジャンルとしては“企業ドラマ”。実話をベースにした病院経営の難しさがリアルに描かれていて、日経の力を感じる。医療ドラマが溢れているなかで、初回から差別化に成功してる。(皮肉な言い方かもしれないが)視聴者は医療ドラマを見慣れているので、企業ドラマが苦手な人でも身近に感じられる。ベテラン山本むつみによる脚本にも安定感がある。
N:数ある医療ドラマの中で、テレ東らしくビジネスドラマの要素を加えて楽しめる。病院長・小泉孝太郎のキャラも頭が良くて誠実そうで相応しく、銀行員の高嶋政伸とのコンビも期待出来そう。中村雅俊等ほかのキャストも充実している感が。
S:ただ、再現ドラマになっちゃうとつまらないなぁ。
I:シビアな病院改革を進めているのにもかかわらず、あくまでもさわやかな小泉孝太郎の笑顔が、エグさを打ち消している。このキャスティングは成功だと思う。
H:医療系ドラマ全般で気になったのは、人の少なさ。各局予算もあるだろうが、とにかく病院に人がいない。受付や病院の廊下、わかってはいるんだけど、どうしても気になってしまう。こんなに空いてる病院大丈夫か?と(笑)。海外ドラマの医療ドラマと比較すると、そのあたりのリアリティでやっぱり全体的に満足感が劣ってしまう…。

注目の個性派ドラマ

T:医療系に続いて多いのが刑事やミステリーもの。
S:「ケイジとケンジ」(テレビ朝日系)は検事付きの事務官が刑事の妹、というドラマならではのご都合設定で、捜査のプロと裁きのプロが、いがみ合いながらも互いの立場を理解したり譲らなかったり。刑事への憧れが強すぎる教員上がりの刑事(桐谷健太)に対抗意識が強くてプライド高い駆け出し検事(東出昌大)と、クセが強いキャラクターを2人が個性むき出しで演じていて楽しい。「刑事ドラマあるある」を入れ込みながら、主人公の紆余曲折と物語の展開を描く福田靖の脚本は本当にうまいと感じる。
H:このドラマも例の一件でとばっちりを受けた印象。どうしても内容よりも、先入観で見てしまう部分もある。視聴率はいいだけに、ちょっともったいないなとも感じてしまった。
S:同じく刑事ものでは1年シリーズで帰ってきた「科捜研の女」(テレビ朝日系)が今期で終わってしまうのがさみしい。サブキャラ召喚、京都を飛び出し広域捜査などシーズン19の厚みを活かしつつ、ユーチューバーになったり池の水抜いてみたりと旬ネタにも事欠かない。1時間で謎解きといい話を堪能させてくれるのも立派なエンターテインメントだと思う。マリコ(沢口靖子)を支える土門刑事(内藤剛志)も警察学校から現場復帰して、フィナーレに向けて期待が高まっている。
T:その他、触れておきたい作品があれば。
Y:触れておきたいのは「ペンション・恋は桃色」(フジテレビ系)。細野晴臣の曲名をタイトルとし、本人も出演者として名を連ねる異色のドラマ。絶妙なタイミングでかかる主題歌や劇伴がいい味を出している。ダブル主演の一人リリー・フランキー演じる情けなくも愛おしい中年男性を中心に、個性豊かな登場人物のコミカルな人間模様が描かれる一方、もう一人の主演、斎藤工がバーで映画論を語るドキュメンタリードラマ風のシーンが挿入されるなど、実験的にも見える作りが興味深い。全5回とコンパクトな作りのなかで、どのように作品が展開するのか楽しみ。放送だけでなくネット配信など作品の提供先の幅が広がるなか、本作のように放送時間や話数、そしてテーマや表現も従来型の日本のテレビドラマの枠を超えた作品が増えていくことで、ドラマ制作手法の多様化につながり、名作やヒット作が出るきっかけになるかもしれない。
S:やられたのが「ハムラアキラ」(NHK)。何をやっても画が持つクールビューティーなシシド・カフカが、ツイてない探偵を演じる。それだけでこのドラマ勝ったな、と(笑)。認知症の母親を熱中症に偽装しようとした男の話は、人を狂わせる夏の暑さがじわじわ伝わってきた、見てるの真冬なのに。頭かち割られたり着ぐるみで汗だくになったり、実の姉に殺されそうになったりで、フィジカルはエグいが、一方で冴えた推理を披露する詩的な語り口はとても理知的。そんな振れ幅に、どこか懐かしい世界観も相まって、今期ドラマでいちばん心を奪われている。
H:「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(日本テレビ系)は世の中にはびこる不正や忖度をミスパンダと名乗るダークヒロインが白黒付けていくある意味わかりやすいストーリー。横浜流星は当然のことながら、清野菜名があそこまでアクションできるとは思わなかった。また、アクの強いダークヒロインと記憶を失った優しすぎる囲碁棋士という2役を清野が見事に演じ分けてる。ミスパンダは自分の過去や記憶に秘密があって、その謎がこのドラマの大きな柱。個人的にヒーロー・ヒロインものが好きなので、ラスボスであろう事の発端であるコアラ男との対決まで見届けたい。
T:私からはいくつかまとめて、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(テレビ東京系)は脚本野木亜紀子、監督山下敦弘というだけでもすごいが、主演が古舘寛治とかなり攻めている。古舘と滝藤とのやり取りは絶妙。生きることの切なさを、うまく笑いに包んで描いている。俳優の演技と「間」を楽しむドラマ。同じくテレ東のドラマ25「絶メシロード」は「孤独のグルメ」「サ道」と同じく、おじさんのささやかな楽しみを描いたドラマ。店のチョイスも絶妙だが、主演の濱津隆之がとてもいい味を出している。
O:テレ東繋がりで、夜8時のドラマ「駐在刑事 Season2」(テレビ東京系)は2時間単発ドラマが連ドラ化したシリーズ。懐かしの2時間ドラマのお約束が満載で、タイムスリップした気分を味わえる。多くの連ドラが旬の役者でしのぎを削っているなかで、ここだけは別天地、安定という違う風が吹いている。
T:「ランチ合コン探偵」(日本テレビ系)は、合コンをランチで行うというというだけでもユニークな設定だが、その上に「探偵」と欲張り設定。しかし、これが意外と面白い。主人公の推理も本格的で、合コンのお相手もイケメンぞろい。トリンドル玲奈のOLぶりもなかなか愉快。
H:推理の内容もさまざまで飽きない。主人公が過去の記憶を持たないというのも今後の展開が気になるところ。
T:「女子高校生の無駄づかい」(テレビ朝日系)は男にモテたい等身大の女子高校生の日常をコミカルに描いているドラマだが、おじさん世代には全然笑えない。10代だけを狙ったニッチなドラマかな。
I:個人的には、くだらないけどやけに笑えて楽しかったけど…。
T:今期の月9「絶対零度」(フジテレビ系)は相変わらず本田翼のアクションは派手で、映像もとてもクール。ただ、主人公の過去が随所に登場し、エピソードの面白さを消してしまっているのでは。「トップナイフ」や「アライブ」など最近のドラマは、キャラクターを深く描くことを狙ってこのような設定になっているものが多い。
S:もう一つ、関西テレビのドラマは悪女役の仲間由紀恵と相性がいいと思っているので、「10の秘密」(フジテレビ系)は楽しみにしていた。シングルファーザーと娘のいい関係も実は…という初回に引き込まれたものの、スリリングな場面の詰めが甘いのがちょいちょい気になる。
K:最後に「アライブ」の話題をもうひとつ。主題歌の『はるなどり』を歌う須田景凪はボカロP“バルーン”としても知られるミュージシャンで、米津玄師と同じような出自の方で、注目している。

以上(2020年1月31日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています