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【座談会】2022年秋ドラマを語る!

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第22弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2022年秋ドラマの注目作を語ります!

静かなる衝撃の展開
大いなる自己批評性

T:秋ドラマがスタートしています。気になった作品を語っていきましょう。
K:「silent」(フジテレビ)は、初回が秀逸でした。紬(川口春奈)と想(目黒蓮)の学生時代の運命的な結びつきを見せた後で、現在は別の男性と幸せに過ごす紬の姿。視聴者の疑問が沸点に達する直前に、8年の空白を埋めるショッキングな事実を提示。ガッと引き込まれました。
I:自分を振ったと思っていた昔の彼氏が、実は失聴していたとわかるところからストーリーが展開していきます。切なくて温かい三角関係は果たしてどこへ? 見事な手話を披露する俳優たちの努力にも拍手を送ります。
K:そうですね。目黒蓮の手話や苦悩の表情、川口春奈の涙に心を掴まれ、これは見続けなきゃと思いました。
H:私は夏帆の演技に賛辞を贈りたいです。初回の登場シーンはごく僅かだったけれど、表情の作り方がずば抜けていた。もちろん主演の二人も良かった。そして下手にBGMを使わない無音の演出も、物語に没頭できる演出になっていますね。
K:1995年の「愛していると言ってくれ」(TBS)を彷彿とさせますが、聴覚障害者がスマホや音声認識アプリを使いこなすのが現代的です。
H:北川悦吏子の当時の脚本も素晴らしかったけれど、脚本家・生方美久が紡ぐ、ちょっとしたセリフもとても新鮮だし、キュンポイントが高い。「パンダ スペース 落ちる」を検索した人も多いのでは?(笑) 今カレが優しすぎて、でも報われない少女漫画のような展開にはなってほしくないなあと思いながら、3人の関係性がどう決着するのか今から楽しみです。
T:「エルピス-希望、あるいは災い-」(関西テレビ)は、脚本・渡辺あや、主演・長澤まさみということもあり、今期いちばん期待度が高いドラマです。えん罪をテーマにしている社会派ドラマで、今後どのような展開になっているかがとても気になる。登場人物の過去がどのように描かれていくのかも楽しみです。
N:同じく渡辺あやが脚本、プロデューサーも「大豆田とわ子と三人の元夫」「17才の帝国」の佐野亜裕美ということで注目していましたが、実際のドラマも期待以上でした。テレビ局の構造を見せることで、テレビ局だけでなく、この国の現状が見えてくる作品になると思います。第1話は15分拡大版でしたが、スピード感があって、ダレる瞬間がありませんでした。
Y:放送が決まらない段階から準備されていた力の入った作品。渡辺あやと佐野亜裕美プロデューサーが答えたインタビューの内容からも、作品に込められたメッセージが伝わってきます。えん罪を軸に、報道の構造や放送局のハラスメントなど、提起されるさまざまな問題がどう描かれていくのか、注視していきたいです。
S:硬派な物語をエンターテインメントに成立させているのは大根仁監督の手腕だと思います。第1話で好きなのは、バラエティ番組の打ち上げで、報道部から異動したディレクターがヤケになって『ガラガラヘビがやってくる』を歌うシーン。やさぐれ感のリアリティにグッときました。
K:始まったばかりですが、見たことのない長澤まさみに釘付けです。落ち目の女子アナという主役の立ち位置や、通俗番組として描かれる深夜バラエティが細部まで作り込まれていて、テレビ局がここまでやるのかと驚きました。客観性や批評性を内包したこれまでにないドラマで、目が離せません。
I:長澤まさみは、年齢とともにどんどん魅力が増していく印象があります。
H:食事を受け付けないというシーンでの表現は凄かったですよね。元カレの斎藤(鈴木亮平)との今後の展開も期待したいし、三浦透子など要所を固める俳優陣にも注目しています。
S:飲み水しか受け付けない身体になっている浅川(長澤まさみ)は、他者を受け入れないことの暗喩にもなっている。えん罪の可能性を追う若手ディレクター(眞栄田郷敦)も、その発端にあるのは正義感ではなく自己保身というところに、内面をえぐるような深さがありますね。

“男前”ヒロイン爽快
“左前”企業どう再生

T:水曜ドラマ「ファーストペンギン!」(日本テレビ)は、主演の奈緒の熱演が見もの。漁師の男たちに対しての気っ風のいい“男前”な立ち振る舞いには、毎回スカッとします。実話をベースにしているので安心して見られますが、どんな楽しいドラマに仕立てていくのか、脚本・森下佳子の腕前にも注目です。
H:初回のキレるシーンでは涙は流さないでほしかったという個人的な感想は置いておくとして(笑)、やっぱり奈緒の演技力でどれだけ説得力を持たせられるのかが柱のような気がしますね。
I:「二度と長いものに巻かれたくない」と願う主人公(奈緒)がチャレンジし続ける姿を見て、「自分はここまで頑張れなかったなあ」と思った初回(笑)。実話がベースだと知っていなければ、「こんなの、ありえなくない?」とも思うような展開ですが、引き込まれます。
N:「二度と長いものに巻かれたくない」という主人公の姿には、「エルピス」の主人公の「もう飲み込めない」という姿がけっこう重なります。過去に、「世間とはそういうものだから」というような形で、巻かれたり、飲み込まれたりした人の姿と、そこから立ち上がる姿を書いているという点で共通しているのだと思います。
K:日曜劇場「アトムの童」(TBSテレビ)は、廃業危機の老舗玩具メーカーと、組織に属さない若き天才ゲーム開発者の組み合わせにワクワク。“好き”を追い求める熱を持つ者同士が、時代を超えてどのようにコラボレーションしていくのか楽しみ。ゲーム業界のいまをわかりやすく描いているので、ゲームに明るくない年配層もついていけそう。巨悪の象徴、オダギリジョーの不気味さもたまりません。
I:倍返しだ!的な勧善懲悪になっていくことが十分に予想されますが、それがいいんです。日曜夜のメンタリティにぴったりだと思うのは私だけでしょうか?
S:うーん。若者が老舗と手を取り合って企業再生へ、という物語を、なにも「半沢直樹」風味にしなくてもいいのに……とは思いますね。
T:新しい朝ドラにも触れておきたいですね。
Y:連続テレビ小説「舞いあがれ!」(NHK)は、子ども時代の五島編。母と祖母、孫である主人公の心の動きが必要十分なセリフとナレーション、見事な芝居で表現され素晴らしかったです。大学生編に入っても、特にサークルの登場人物一人ひとりまで丁寧に描かれている点に好感が持てます。引き続き主人公の人生を見守っていきたいと思わせる作りになっていると思います。
S:主人公の成長と、周りの人々の心情が細やかに描かれていて、穏やかに見ていられます。ヒロインの舞(福原遥)は人力飛行機のパイロットに挑戦。長崎・五島のバラモン凧から始まった空への思いが形を変えてつながっていく展開を見守りたいと思います。
H:初回の永作博美が涙するシーンでグッときました。時代は違いますが、現代のお母さんにも通じるところがあり、あのシーンを描くことでこのドラマが全国のお母さんへのエールになると感じられた。これぞ朝ドラという感じですね。

のほほんと犯罪もの
シリアスな医療もの

T:ほかに個別に挙げたい作品があればお願いします。
N:土曜ドラマ「一橋桐子の犯罪日記」(NHK)は、同居していた親友を亡くし、年金、パート暮らしで先行き不安な主人公が将来に不安を感じ、刑務所に入れば不安がなくなるのではと、できるだけ迷惑をかけずに捕まる道を模索するという、笑えない実情を描いているのですが、「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」のふじきみつ彦が脚本を書いていることもあるのか、どこかのほほんとした、コミカルな空気も漂っています。主人公を演じる松坂慶子のコメディエンヌぶりも楽しく、彼女が犯罪者になろうともがくなかで出会う人たちのキャラクターも人間的です。彼女が最終的にどんな選択をするのか、最後まで見逃せません。
I:同じNHKだと、夜ドラ「つまらない住宅地のすべての家」(NHK)は、津村記久子原作。どこにでもありそうな住宅地だけれど、それぞれの家にそれぞれの物語が潜んでいる。脱獄犯が果たしてこの町に来るのか?それは何のため?というミステリーを軸に、それぞれの物語が展開していきます。やることなすこと、おかしな方向に行ってしまう残念な主人公を井ノ原快彦が好演しています。
T:木曜ドラマ「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日)は、まさに看護師版の「ドクターX」。同じ中園ミホの脚本には、見る者にカタルシスを感じさせる場面が随所に散りばめられている。岡田将生と中井貴一が演じるふたりの凸凹な看護師のバディ感も楽しい。
I:まさにドクターXですが、「そう来たか!」という感じ。主人公の二人の絡みが秀逸です。
S:「PICU 小児集中治療室」(フジテレビ)は、子役がロケ中に亡くなるという衝撃のシーンからスタート。重症の小児病棟が舞台だけにシビアな展開が続きますが、危機的状況にあっても常に真摯に患者やその家族に向き合う植野医師(安田顕)に胸を打たれました。知識も経験も少ない志子田(吉沢亮)が植野のもとでどんな医師になるのか。明るいばかりの展開とはならないなか、志子田と母親(大竹しのぶ)のシーンにホッとしています。
H:伏線と思われるシーンがたくさんあって、ちょっと怖い部分もありますよね。母親の病気や友人の妊娠に過労、少しずつそれらが明らかになるとは思うのですが、各話のテーマでどこまで視聴者を引き付けられるかが鍵かなと思っています。

定番シリーズに変化
攻める深夜枠は不変

T:テレビ朝日の定番シリーズも、新シリーズが始まっています。
S:「科捜研の女2022」(テレビ朝日)は、曜日が移動したとたん、硬質な画作りに変化し、人体発火やサイバー犯罪がテーマになる。まるで科捜研が、WOWOWが作るクライムサスペンスの世界線に転生したかのようで、正直戸惑っています。職務に忠実すぎるマリコ(沢口靖子)の世間ずれっぷりが魅力のひとつだったのに、今回はそれも少なめ。ドラマを支える京都の風景もあまり描かれなくなった気がして、寂しいです。
I:「相棒 season21」(テレビ朝日)も、滞在中の国賓が死亡するという重い始まり方ですが、このくらいお膳立てしないと、初代相棒の亀山薫(寺脇康文)を海外から呼び戻せないですよね。浦島太郎状態の亀山が久しぶりの警視庁に面喰らいながらも、同期の伊丹(川原和久)との小学生レベルのいがみ合いは健在で、まさに原点回帰の趣です。一方で、杉下右京(水谷豊)から徐々に人間味が抜けてきて、道理や遵法に傾いているような気がします。取り越し苦労だといいのですが。
Y:私はテレ朝からこの2本を。一本目は土曜ナイトドラマ「ジャパニーズスタイル」(テレビ朝日)。「テレ朝初の本格シットコム」として、30分の「ほぼ本番一発勝負」で制作。局として新たなドラマフォーマットへの挑戦となっているところが興味深いです。主演の仲野太賀の表情豊かなキャラクターに加え、次から次へと「変な人」が出てくる初回を面白く見ました。次回以降も多様なゲストが出てくるようで楽しみです。もう一本は金曜ナイトドラマ「最初はパー」(テレビ朝日)。芸人を志す人のさまざまな人生を垣間見られる内容で、その挑戦がどう展開していくのかの興味を引く初回でした。多くのバラエティ番組を手掛けてきた佐久間宣行プロデューサーが総合監修を務めていることで、お笑いの本質が見える表現が出てくるのではと期待しています。
H:脚本には秋元康も名を連ねていて、相変わらず時代を読んだ作品で連ドラから映画へ続くヒットを飛ばしているので、今回も注目ですね。セリフの自虐ネタも話題になりました。
T:テレ東からは、テレ東らしい攻めた2作品を。今期は深夜ドラマならではの“エロい”2本に注目しています。まずはスワッピングを明るく描いたドラマParavi「夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~」(テレビ東京)。陰湿になりがちなテーマをコミカルに描いていて、楽しく見られる。知名度のある俳優が演じるベッドシーンは見応え十分。水ドラ25「キス×kiss×キス~メルティングナイト」(テレビ東京)も、ドラマ部分よりもキスシーンのほうが多いという意欲作。BLものもあり、まさに深夜でしかできないドラマです。
H:オリジナルドラマ「DORONJO/ドロンジョ」(WOWOW)も挙げておきたい。タツノコプロ創立60周年を記念して制作されているだけあって、重厚感ある物語。池田エライザもベストキャスティングだったし、相手役の山崎紘菜がインフルエンサーという設定も現代アレンジが効いていて面白い。これからどうやってドロンジョになっていくのか楽しみです。配信だと1か月分が同日配信されるので一気見できるのも嬉しいです。
T:今期は注目作も多く、盛り上がっていますね。年末に向けてどんな展開になるのか、引き続きチェックしていきましょう。

(2022年10月28日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています。