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【座談会】2022年秋ドラマまとめ編

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第23弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2022年秋ドラマ注目作の感想を語ります!

抑えられた音量…抑えられぬ熱量

T:新年あけましておめでとうございます。旧年中に最終話を迎えたドラマをさっそく総括していきましょう。まずは話題の木曜劇場「silent」(フジテレビ)からでいかがでしょうか。
K:音の要素を極力少なくして、手話を際立たせる演出にしびれました。画面を食い入るように見つめ、こんなに集中してドラマを見たのは久しぶりかも。ラストの黒板に文字を書き連ねる演出も同様で、コツコツとチョークが当たる音だけを頼りに紡ぎだされる言葉が美しかった。伝えたい思い、理解したいという願い、その熱量をどれだけ持っていられるのか。失聴者であるかないかの以前に、コミュニケーションの本質について、深く考えさせられる上質なドラマでした。
I:先天性のろう者、中途ろう者、健聴者、それぞれの気持ちを伝える出演者の表情や手話がよかったのですが、とくに夏帆の演技が群を抜いていて、魅力的な表情に引き込まれました。三角関係だと思っていたら四角、五角関係みたいになった物語の展開からも目が離せませんでした。
H:夏帆の演技は本当に素晴らしかった。前回座談会でもコメントしましたが、ストーリーが進むにつれての心情の変化やキャラクターの魅力が伝わる素晴らしい演技でした。加えるとすると、作品全体を通じてセリフがとても自然でよかった。無音の演出で伝える手法も素晴らしかったけれど、セリフとして伝える部分も無理のない、それでいて印象的な言葉選びに驚嘆しました。ストーリー的にはドロドロ感なく、一歩引いたりするのもリアルな今どきなのかな? 若い世代に刺さったのは制作者側も嬉しいことだったと思います。
K:冒頭からロケ地の駅名が露出されて、回を重ねるごとにロケ地めぐりに多くの人が訪れたようですしね。オンエアとリンクさせた地域活性化戦略も、大成功を収めたと思います。
N:話題にもなり、肯定的な意見もある一方で、実際には当事者であるろう者の疑問の声がかき消されてはいけないなということも付け加えたいと思います。

骨太エンターテインメントに制作者の覚悟

T:続いてもう一つの話題作にいきましょう。
I:「エルピス-希望、あるいは災い-」(関西テレビ)ですね。実際に起きた冤罪をベースに、テレビ局の罪にもきちんと迫った制作者の覚悟をしっかり感じました。現実をギリギリまで描いたなという印象です。最終回の長澤まさみと鈴木亮平のバトルは迫力満点で、セリフも秀逸でした。放送しないことへの交換条件を彼女が出したことで、溜飲が下がった部分とそうでない部分ができた結末にも現実味がありました。
K:個人的に2022年のナンバーワンドラマです。一筋の希望の光が差したかと思えばどん底に突き落とされるハードな展開が繰り返されるにもかかわらず、一貫して静謐で清浄なものが流れ続けているように感じ、重層的な味わいがありました。人間を信じるということの意味とその重みを、制作者と演者が魂を削って表現した作品だと思います。キャスト全員にとって代表作になりそう本作ですが、軽薄な業界人が肝の据わったジャーナリストに変貌する眞栄田郷敦の演技がともかく素晴らしかった。
S:骨太だけれどエンターテインメント。毎回、身を乗り出して見ていました。お坊ちゃん的なテレビ局社員が、真実の追及にのめり込んでいくにつれてワイルド化していく。眞栄田郷敦の豹変ぶりに感嘆しました。セリフも秀逸でしたが、登場人物の演技をがっつり撮り切る演出が、一貫した緊迫感を与えていたと思います。一方で、番組のタイトルCGなども凝っていて、チーフ演出・大根仁のこだわりが見えました。
N:皆さんがおっしゃる通りで、俳優たちの演技が光る脚本でもありました。ポスタービジュアルになっている長澤まさみ、鈴木亮平、眞栄田郷敦の演技も素晴らしかったですが、会社を辞めた村井を演じた岡部たかしが一気に注目の人になりました。エンディングの映像や音楽も含めて、トータルでのプロデュース力も光っていたと思います。
H:面白かったですね。骨太な内容でしたし、各キャラクターも魅力的で、真相に徐々に迫っていく緊迫感を楽しめる作品でした。
S:ただ、9回がかりで広げた謎を最終回で一気に回収するのは駆け足が過ぎると思いました。登場人物も魅力的でしたし、半年かけて放送してもいいくらいではなかったかと思います。
H:ひとつ思ったのが、こういう作品は視聴者側の気持ちも引っ張ってしまうということ。正しいことをするためになぜこんなに高いハードルがいくつもあるのか!と、勧善懲悪とはいかないリアルさが見ていてしんどいと感じる部分もありました……。作品としては素晴らしいので、単なる言いがかりですが(笑)。

スカッとさせるナース 清々しくさせる医師

T:「silent」と「エルピス」が話題を独占した印象もありますが、ほかの作品はいかがでしょうか。
I:木曜ドラマ「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日)は面白かったと思います。ただ、最終回の最後に重病であるはずの中井貴一がしっかり空港の中を歩いていた姿には違和感が(笑)。あの状況なら車椅子じゃないの?と突っ込みました。
T:ドラマを見てスカッとしたい“水戸黄門”派の人には、打ってつけの作品でした。卓越したスキルを持ち病院を渡り歩く“トラベルナース”の男性二人の関係が何とも愉快。しかも、若いナースの成長も描かれ、お仕事ドラマとしても楽しめました。ナースにしかできない患者の心に寄り添う姿が軸に描かれ、「ドクターX」とは違う新しいタイプの医療エンタメドラマという印象も持ちました。
S:「PICU 小児集中治療室」(フジテレビ)は、ドラマとは言え、小児の重症患者の描写が痛々しく、正直、見るのがつらかったです。ただ、僻地医療の課題を抱えながら、命と誠実に向き合う医師たちの姿に感じ入りました。幼なじみ4人の友情に支えられ、先輩医師から学びを得る志子田(吉沢亮)の成長は、清々しいものがありました。
H:母親役の大竹しのぶとの家庭でのやりとりが好きでしたね。これはアドリブかな?と思わせるシーンもあるなど、ほっこりしました。そのせいか、その母が亡くなってからは心休まる部分が視聴者としても失われた感じがしました。テーマがテーマなだけに、明るく描くのは難しいとしても、もう少し余白を作ってほしかったなと思います。
T:木ドラ24「自転車屋さんの高橋くん」(テレビ東京)も、ヤンキーとアラサーOLのの恋愛を丁寧に描いていて好感が持てました。出会ってから心を交流させていくまでを、さりげない日常を通して描写していき、心温まる作品でした。地方都市のローカルな雰囲気も、ドラマの世界観を盛り上げていました。
H:確かにさりげない日常のシーンが良かったですね。内田理央は「来世ではちゃんとします」(テレビ東京)のイメージが強く、そこからもう少し抜け出してほしかったかな。

泣ける笑える青春 みずみずしい青春 

T:そのほかはありますか?
K:金曜ナイトドラマ「最初はパー」(テレビ朝日)は、お笑い芸人養成所が舞台なので、さぞかし笑わせてくれると思いきや、終盤になって泣かされるとは……。意外性も含め琴線に触れるいいドラマでした。主演をつとめたのはジェシーと市川猿之助。まったく接点がなさそうに見えた二人に強い絆とコンビ愛が芽生えてくところは見応えがありました。そして、小藪千豊の冷徹な講師ぶりが憎らしいほどうまくて、最後に見せる笑顔がまたよかった。
T:オリジナルドラマ「早朝始発の殺風景」(WOWOW)は、今期一番の注目作でした。主人公二人が追いかける事件の真相とは別に、高校生たちの日常生活で起きる小さな謎がミステリー風に展開していく。さりげない会話のなかに彼が感じている閉塞感が繊細に描かれ、この世代ならではの姿が味わいのある映像で瑞々しく表現されていました。毎話流れる「青春は気まずさでできた密室だ」という独白が胸に刺さりました。
H:ドラマL「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(朝日放送テレビ)は、原作マンガのアニメ化が先にあり、満を持しての実写化。主人公にアイドル出身の松村沙友里をキャスティングしたのはよかった。一方で、ストーリーが整理しきれていないと感じたり、アイドルのライブシーンは迫力がなく思えたりと、実写化の難しさを感じました。最終回もすごく中途半端に終わってしまって、消化不良でしたね。映画化が発表されましたが、映画につなぐためにももう少しドラマで描いてほしかった。
T:ドラマシャワー「永遠の昨日」(毎日放送)にも触れたい。この2~3年で日本でもいろいろなBLドラマが作られてきましたが、今作は一風変わった設定。死者と過ごす奇妙な数日間。周りがその存在を忘れていくなかで、相手のことをいかに好きだったかを確認し合う高校生二人の姿が繊細に描かれ、とても切ないラブストーリーになっていました。主演をつとめた小宮璃央、井上想良の“視線の演技“がとくに素晴らしかった。
I:私は、夜ドラ「作りたい女と食べたい女」(NHK)を。料理上手を誉めたつもりで「いいお嫁さんになれるわね」と言った人は、言われた女性の不快感に気づかないんですよね。主人公(比嘉愛未)の小さな反発に共感した女性も多いのでは? ストーリーらしいストーリーは、ないと言えばなくって、シーンの多くが料理して食べるだけ。でも、夜中の15分が何とも言えずほっこりした気分になりました。

卓越の娯楽志向が若年層もつかんだ

T:最後に、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)も最終回を迎えました。感想をお願いします。
S:1年を通じてリアルタイム視聴した、はじめての大河ドラマでした。謀略のうちに有力者を殺し合うという、ある意味、戦国時代より血生臭い鎌倉時代。どんどん陰惨になっていく展開を追ううちに、最後まで見届けないと見る側も浮かばれんわ、と思って見ていました。シリアスな場面に差し込まれる面白シーンに、毎回救われました。権力の座に近づくにつれ「闇堕ち」していく北条義時(小栗旬)。小栗の鬼気迫る演技から当時の不穏な空気が伝わりました。畠山重忠(中川大志)の最期は息をのみましたし、北条時政(坂東彌十郎)追放直前に北条家が集まって交わす会話は、仲のよい家族の分断が切なくて涙しました。個人的に名シーンだと思います。
N:ふだん日本のドラマに手厳しい人までも、最後まで夢中にさせた作品でした。北条政子(小池栄子)をはじめとした女性の描き方についても、「悪女」としてステレオタイプには描きたくないという意思を感じました。
S:義時が主人公ですが、実際は政子のドラマだったのかな、と思いました。夫である源頼朝の遺志を継ぎ、鎌倉のためにとことん慈愛に尽くす政子が物語を支えていたと思います。政子の「従三位」ポーズは、誰もいないところでたまにやっています。
T:緊張と弛緩、硬と軟。その三谷幸喜の卓越した娯楽志向の脚本がSNSで反響を呼び、若年層まで虜にした新時代の大河ドラマでした。源実朝の恋愛観の描き方には今日性も強く感じましたね。すぐに新ドラマがスタートします。注目作品もあると思いますが、引き続きウォッチしていきましょう。2023年もよろしくお願いします。

(2023年1月5日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています。