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【座談会】2022年夏ドラマまとめ編

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第21弾★

連休に台風直撃が重なる夏クールになりました。
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが2022年夏ドラマ注目作の感想を語ります!

初回から見直したい「悪魔」
価値観を見直させる「魔法」

T:さあ、夏ドラマが最終回を迎えました。総括していきましょう。
K:「初恋の悪魔」(日本テレビ)は、最終話を見終わったら、またすぐ初回から見直したくなりました。これは傑作ドラマの証なのでは。脚本、演出、キャスト、いずれもすばらしく、特に林遣都さんの渾身の演技に心が震えました。サスペンスとしての謎解きの面白さはもちろんのこと、登場人物が心に抱える闇と、それらが絡まり合い浮かび上がる感情が繊細に描かれ、そして要所要所の会話が文句なく楽しい。ドラマの魅力がぎゅっと詰まった名作だと思います。
I:松岡茉優が二重人格だったという設定には意表を突かれたけれど、それゆえの本人の悲しみ、そしてどちらの人格かで両思いの相手が林遣都なのか仲野太賀なのか分かれるという辛いシチュエーションのなかで、役者が巧みに気持ちの揺れを伝えていました。やっぱり坂元裕二の脚本は一筋縄ではいかない魅力があります。
T:ドラマの醍醐味のひとつであるセリフが秀逸でしたね。長いセリフの会話のやりとりでも、その長さを感じさせないリズムがあり、役者も見事に表現していました。
H:見ていて飽きなかったですよね。キャラクターがそれぞれに何かを抱えていて生きていて、その問題の所在は組織だったり、家族だったり、自分の中だったりで、それが本当にリアルに細かいセリフと共に描かれていて感情移入できました。主演の4人の細かい演技はどれも素晴らしかったけど、林遣都と松岡茉優はズバ抜けていました。
Y:交差する恋愛と友情、コミカルなシーンと事件を取り巻く緊張感の絶妙なバランスから生まれる独特の面白さを全10回存分に堪能しました。多重人格者を演じた松岡茉優の、目線やしぐさひとつで、一瞬で別人になる演技には圧倒されました。脚本も演者も音楽も素晴らしい作品を無料で毎週楽しみに見られるなんて!という地上波ドラマの底力を感じたところです。
S:「魔法のリノベ」(関西テレビ)は、ゆるいセリフ回しとポップな質感の映像ながら、会社組織の闇や働く女性を阻む壁など、シビアな問題も浮き上がらせていて、奥行きの深いドラマだと思いました。一方で、付かず離れずな小梅(波瑠)と玄之介(間宮祥太朗)の恋模様にもやきもき。見どころ満載で楽しかったです。
N:ヨーロッパ企画の上田誠さんが脚本なだけに、まるふく工務店の人たちの飄々としたおかしさが出ていたのもよかったです。
H:工務店のシーンは本当に良かったですよね。小出さん(近藤芳正)と越後さん(本多力)の絶妙の間でのツッコミや、工務店のマスコットキャラクターまるふくろうを生かして、たまに乗り込んでくるグローバルの社員たちのクセの強さを面白く表現していました。
S:まるふく工務店の面々が見られなくなると思うと、寂しいです。
N:このドラマには「家には魔物が住んでいる」というテーマみたいなものが、何度も出てきますが、この魔物というのは、家族観とかジェンダー観とか、そういうものの中にある、古くなった価値観なのかなと思わせるものがあって、楽しいだけじゃなくて、なかなか深くまで切り込んでいると思いました。
I:仕事のできる上司に鍛えられて、頼りなかった主人公がだんだん成長していき、やがて二人は……というのはドラマの定番ですが、従来たいていは男女が逆でした。けっこう、さりげなくフェミニズムが入っていたところが心地よかったです。
S:余談ですが、ダブルのジャケット+9分丈パンツ+コンビのローファーという小梅さんの衣装が毎回かわいかったです。

さまざまな「今」…続編いける
特異な「今」…切り取りが絶妙

K:金曜ドラマ「石子と羽男 ―そんなコトで訴えます?―」(TBSテレビ)は、市井の人々の「傘」になろうと主人公たちが結束していく、そのプロセスと寄り添い方が魅力のドラマでした。回を重ねるごとに石子と羽男への親近感が増し、心が温かくなりました。連ドラ初出演のさだまさしも、人情味溢れる存在感が好印象。赤楚衛二も含め、単純な恋愛物語にしていないところも好感が持てます。
I:最終回で、トラウマから足がすくんでいる有村架純の背中を、中村倫也が押して「(司法試験に)さっさと受かってこい」と言った台詞にグッときちゃいました。
N:1回目からカフェでの充電問題とか、その後もファスト映画、電動キックボード、育児問題、トー横キッズ的な話など、今の社会問題を積極的に取り上げていたのも面白かったです。この感じならば、そのときどきの社会問題を取り入れて、シーズン2も3も作れるのではないかと思いました。
K:この素敵なキャストでのシリーズ化を期待します。
Y:夜ドラ「あなたのブツが、ここに」(NHK)は、コロナ禍でキャバクラから宅配ドライバーに仕事を転じ、奮闘する主人公。家族や職場における登場人物たちの関わり一つひとつに「人がそれぞれの場所で自分の人生を確かに生きている」様子が映し出され、苦しさのなかでも前を向く主人公から力をもらえた気がします。
K:今まであまり描かれてこなかったタイプのお仕事系ドラマとして注目しました。キャバ嬢から宅配ドライバーに転身したシングルマザーの必死の頑張りとともに、コロナ下の運送業、その過酷さが抜群のリアリティで伝わってきました。主人公・亜子(仁村紗和)のがむしゃらな姿に胸が締め付けられ、毎晩エールを送りながら見ました。夜ドラ、いいですね。
Y:コロナ禍を正面から描き、時代の空気感を絶妙に切り取った稀有な作品になっていたと思います。ニュースや朝ドラの音声や映像も織り交ぜながら、実際の社会の動きや時間の流れを見せる手法で、ドラマの形で「今」を記録した番組にもなっていました。コロナ下の特異な環境を、リアリティを持って伝える貴重なアーカイブにもなるかもしれません。
N:「純愛ディソナンス」(フジテレビ)の最初の番宣では、「禁断の恋」ということを押し出していましたが、意外と上品で、主人公たちの恋愛を丁寧に追っている感じもありました。ただ、どちらかに振り切れていなかったので、ハラハラドキドキを求めている人には刺激が足りず、純愛ものを求めている人からすると、強烈なキャラクターたちとちぐはぐなような、そんな中途半端な印象になってしまったのかなと思いました。でも、個人的には主人公の感情の変化を丁寧に追っているところに好印象を持ちました。
H:私も楽しめました。確かに次から次へと二人の間に問題が発生して、そのたび別れる決断をして、という繰り返しだったのですが、回を追うごとに二人の気持ちの純度は高まっていっていたように思えました。そして前回の座談会でも言ったんですが、富田靖子のお母さん役は本当によかったですね。嫌味っぽいセリフ回しだったり、それでもどこか憎めない感じがあって、縁を切りたいのに切れない主人公の気持ちがわかります(笑)。

それぞれが見せた「いい仕事」
さて「朝ドラ」のほうは…?

T:そのほか、個別に挙げたい作品があればお願いします。
S:日曜劇場「オールドルーキー」(TBSテレビ)は、悩めるアスリートに自分ごととして寄り添う亮太郎(綾野剛)の泣き笑いの日々と、彼を支える妻(榮倉奈々)と子どもたちのほのぼのした生活に、見る側も微笑ましい気持ちになりました。各回の競技シーンも臨場感たっぷりで引き込まれました。とくに4話の「引退試合」で職場の仲間たちとボールを追うシーンが印象的でした。1週間の始まりに向け、メンタルを前向きにしてくれるドラマでした。
K:「あなたのブツが、ここに」と同じ職業ドラマとして注目したのが「シネコンへ行こう!」(BS松竹東急)。地方都市のシネコンが舞台で、今どきの映画館運営の舞台裏が垣間見られ興味深かったです。映画オタクのマネージャー・渋井(芹澤興人)は、いかにも劇場にいそうなキャラで、毎回の映画の蘊蓄話を楽しみました。
T:ドラマParavi「みなと商事コインランドリー」(テレビ東京)は、奇をてらわず、自然体の若者の姿が描かれていて好感が持てました。BLドラマの定番であるサブカップルの描き方もなかなかいい。そして、ドラマ全体に感じられる夏の雰囲気が何よりも心地良かったです。
S:「泳げ!ニシキゴイ」(日本テレビ)は、くすぶりながらも少しずつ「気づき」を得て成長していくおじさん芸人・錦鯉のあきらめない強さもさることながら、芽が出ない間もずっと彼らを温かく見守る親心に感動しました。M-1王者の根っこにあるのは、周りの人に笑顔でいてほしい、というシンプルな願い。家族を実直に描いたホームドラマだと思います。
T:ドラマ25「絶メシロード season2」(テレビ東京)は、まだ放送中だけれど、ここで取り上げたいドラマなのでひと言。シーズン2になっても前作の良さはそのまま。巨大エビフライなど、食べたくなる料理が次々と登場。2になってドラマの要素も強くなりました。
K:私も職業ドラマの番外編としてドラマ25「晩酌の流儀」(テレビ東京)を挙げたい。グルメドラマですが、スーパー・店員役の牛場(馬場裕之)が出色でした。主人公(栗山千明)が毎日訪れる店の売り場で、常連客のニーズを必死に察知し、誠心誠意フォローする姿はまさにプロフェッショナル。こんなカリスマ店員のいるスーパーが近所に欲しい!と思わせてくれました。
T:いろいろな意味で注目を浴びた朝ドラにも触れておきたい。連続テレビ小説「ちむどんどん」(NHK)は、急に話が飛んだり、都合のいい展開になったりと、ドラマとしてはツッコミどころ満載でしたが、朝ドラの主人公の成長、家族の絆という普遍テーマはしっかりと描けていたと思います。特に、仲間由紀恵、大森南朋の両親の存在感は見事でした。
I:最後までニーニーはアホだったし、最後まで予定調和満載で…最初はイライラしたけれど、長く見ているうちに、だんだん馴染んできました(笑)。
Y:「初恋の悪魔」は素晴らしかったけど最終2話で明らかになった事件の真相にまつわるストーリーがやや駆け足に見え、人物たちの心の動きをもう少し深く見てみたかった気もします。そうすると配信で話数や時間の制限がないほうがよいのだろうか…と思ったのも事実。もちろん制作者の意向ありきではありますが、番組フォーマットを改めて考える機会にもなりました。
N:「魔法のリノベ」や「石子と羽男」もそうですが、今期は男女のバディものが多かった印象がありますね。
T:「初恋の悪魔」が頭一つ抜けていたように感じましたが、魅力溢れるドラマがたくさんある楽しいクールでした。すぐ秋ドラマがスタートします。引き続き、チェックしていきましょう。

(2022年9月30日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています