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【座談会】2023年冬ドラマを語る!

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第24弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年冬ドラマの注目作を語ります!

「!」にワクワクする
「?」にモヤモヤする

T:冬ドラマがスタートしました。すでに数話が放送されている作品もありますが、今期の注目作を語っていきましょう。
K:日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ)は、徳を積むために人生を生きなおす麻美(安藤サクラ)が主人公。この設定からして面白くないわけがないのですが、仲良し3人組の女子トークが最高に楽しい。さすがバカリズム作品、テンポのいい会話に引き込まれます。2週目、3週目と人生を最初からやり直す主人公ですが、同世代の視聴者にとって懐かしいアイテムが続々登場し、たまらなくエモいはず。リバイバルヒットも生まれそう。時間を巻き戻して人生を俯瞰することで、同級生や元カレの存在がまったく違う見え方になるなど、人生の含蓄もありそうで、展開が楽しみです。
T:なにげない会話がとにかく面白い。「架空OL日記」(2017年、読売テレビ)のときもそうでしたが、バカリズムの脚本は「あ、そうそう」と共感できるセリフが多い。なので、今回のタイムリープの物語でも身近に思えてきます。
N:バカリズム原作のドラマは、毎回楽しく見ています。今回もごくごく普通の主人公たちの会話が、まるで本当に自分たちの周りでやりとりしているようななにげないリアルさがあってクスッと笑えます。その上で、何度も自分の人生を生き直すという不可思議な要素もあって、飽きさせません。
I:水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ)は、オープニングの映像と音楽の使い方が「のだめカンタービレ」(2006年、フジテレビ)と似ているなあと思いました。「のだめ」で玉木宏の指揮がスペシャルドラマの頃には素晴らしく上手になっていたように、田中圭の指揮も上手になるのかな。
S:ステージを放棄したかつての天才バイオリニストが、そんなに簡単に復帰できる? そこに音楽への葛藤はないの? プロオケってそんなに緊張感がないの?などと、設定や展開にモヤモヤしています。公共と芸術の関係とか、文化の保護とか、ジャーナリスティックな視点があってもいいような。
H:そうなんですよね。展開が早くて、どうしても「?」が頭に浮かんでしまうことが多かった印象です。
S:とはいえ、見ているぶんには、かなりメジャーなクラシック楽曲がふんだんに使われていて楽しいです。根底には、誰かと一緒に何かを成すことへの渇望が無意識にあるのかもしれないな、と思いました。

上質さに目をこらす
緻密さに目を見張る

T:次にTBSのドラマにいきましょう。
I:火曜ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」(TBSテレビ)は、北川悦吏子の描く世界が、広瀬すずという上手な役者を主演にしたことで、上質なドラマになっている感じがします。お金持ちの趣味人を演じる夏木マリも魅力です。
Y:広瀬すずのかわいらしさや夏木マリの個性的な魅力がよく現れていると感じた一方、九州出身者の目線では違和感を覚える部分も多かったです。宮崎から上京した主人公の方言は意図的に九州各地のものを混ぜているとのことですが、出身地を明示しているのでどうしてもギャップがありました。
H:そこにどういう意図があるのか、ちょっと分からないですよね。それからベランダから下にいる相手と話したり、水に濡れたり、「ロミオとジュリエット」って書いてある黒板とか、北川さんの脚本だなぁと(笑)。正直、第1話では「何回偶然出会うんだよ!」とツッコミまくってしまいました。
Y:あと、明確に時代設定をしているなか、都会と地方の情報格差がなくなりつつある時期に学生時代を過ごしたはずの主人公の過剰な田舎感が、「都会から一方的に見た構図」にも見えてしまいました。
T:広瀬すずのオーバーな演技に少し引き気味になる一方、永瀬廉の自然さがとても心地よいです。このふたりが接近していくと分かっていても、どのように心が動いていくのか気になる。[Alexandros]の川上洋平のギターをバックに夏木マリが歌う『なごり雪』には、グッときました。
I:我が家では「うまいね」「そういえば、歌手だった」と会話を交わし、その後、わたしの脳内で、『なごり雪』が勝手に自動演奏を繰り返しています。
S:日曜劇場「Get Ready!」(TBSテレビ)は、法外な治療費をふっかける闇医者チームのドラマ。「ブラック・ジャック」と「必殺仕事人」を掛け合わせた感じでしょうか。依頼者は、復讐に走る犯罪被害者遺族や、理想の学舎を目指すために裏口入学に手を染める大学理事長など。一見して断罪すべき人物にも、そこには彼らなりの理念がある。その意を汲んだ闇医者チームの行動には、毎回考えさせられます。
H:第1話を見た感想だと、“救う・救わない”の基準がよく分からないのがモヤモヤしましたね。ドラマが進むにつれて「救う価値がある人」が描かれていくのだと思うけれど、そこは1回で明確に示してもらいたかったかなぁ。
J:このちょっと不可解な既視感は何だろうと考えて、「加山雄三のブラック・ジャック」(1981年、テレビ朝日)に行き着きました。理論では説明できないのが人間の業。消化不良な点もまたひとつの世界観として展開いくのかもしれません。
S:もうひとつ、CGを駆使した画作りも注目しています。AIと協働しながら手術をするときの緻密な映像は、未来の医療技術を見ているかのようで、目を見張ります。
N:金曜ドラマ「100万回言えばよかった」(TBSテレビ)の初回は、映画『ゴースト ニューヨークの幻』的な面白さがあると思って見ていましたが、2回目に佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』の話題が出てきたということは、人を愛することや、人と別れることなどを、深く考えさせる作品になるのでしょう。
I:同じく『ゴースト』を思い出しました。切ないですよね。どう展開していくのか、最終回でどう感動させてくれるのか、楽しみです。

ほんわかを楽しむ
おやおやを楽しむ

T:テレビ朝日の作品はいかがでしょうか。
S:「星降る夜に」(テレビ朝日)は、初回の冒頭部、女性のソロキャンプで、状況もわからないまま見ず知らずの男性がグイグイ来たら怖いですよね。そこにはドン引きしましたが、それを乗り越えると、さまざまな人間ドラマが見えてきました。恋愛ものなのでしょうが、むしろ周囲の人たちが織りなす悲喜こもごもを、興味深く見ています。キャストや演出家が重なっているせいか、「にじいろカルテ」(2021年、テレビ朝日)のほんわかしたテイストを味わえています。
K:今期注目している「星降る夜に」の一星(北村匠海)。ヒロイン・鈴(吉高由里子)より10歳年下でろう者である彼が、手話を自在にあやつりながら前のめりに思いを伝えようとする姿が魅力的。前期の「silent」(フジテレビ)を“静”とすると、周囲の人たちと生き生きとコミュニケーションを交わす姿はまさに“動”。彼によって生きづらさを抱える女性・鈴がどのように変わっていくのか、見届けたいです。
Y:土曜ナイトドラマ「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」(テレビ朝日)は、コロナ禍で仕事が激減した花火師が主人公。高橋一生と橋爪功の親子の掛け合いがテンポよく、舞台のような会話劇を楽しめます。亡くなってからも現れる父親を交えた対話を通して見える主人公の心の動きが、今後どう変化していくのか楽しみです。コロナ禍をある仕事の側面から見るという観点でも、興味深い作品になるかもしれません。
I:金曜ナイトドラマ「リエゾン-こどものこころ診療所-」(テレビ朝日)は、郊外にある児童精神科を舞台にした作品。「うんうん、わかるわかる」と思って見ている視聴者も多そうです。
J:木曜ドラマ「警視庁アウトサイダー」(テレビ朝日)は、西島秀俊と濱田岳がアウトサイダー刑事という、ちょっと意外性のある配役に興味をひかれました。原作小説もシリーズ出版されていて、ドラマもそのままシリーズ化を狙っているのでしょう。おなじみ物として見ると笑いとシリアスのメリハリが強すぎるきらいはありますが、これは「TRICK」(テレビ朝日)の延長戦上にあるような手法でより若い層を取り込もうとしているのだろうなと納得が行きます。

どう回す?「大奥」
どう転ぶ?「家康」

T:NHKの作品はどうですか?
H:ドラマ10「大奥」(NHK)は面白いですね! 冨永愛を筆頭に、キャスティングの妙が光ります。また、男女逆転することで現代に通じるメッセージも感じられます。
N:今回は今まで映像化されていなかったところまで描くということもあるし、フェミニズムが前回の映像化のときよりも浸透した今だからこそ、男女が反転した世界だからこそ見える本作のテーマがより伝わりそうな予感がしています。
T:「大奥」は若い男性の役者にもぜひ注目を。中でも、総取締の藤波と怪しい関係の中臈(ちゅうろう)・柏木を演じる井上祐貴は、ひときわ存在感がある。「花嫁未満エスケープ 完結編」(テレビ東京)でもヒロインの相手役であるシングルファーザーに扮し、イケメンぶりを遺憾なく発揮しています。
Y:土曜ドラマ「探偵ロマンス」(NHK)は、史実を元にフィクションも織り交ぜながら、探偵の経験を経て作家・江戸川乱歩が誕生するまでを描くという発想がまず面白いです。「カムカムエヴリバディ」の制作陣が再集結というのも見どころで、同作と同じように舞台となる時代の雰囲気を大切にしながらしっかりと物語が紡がれ、見応えがあります。このあと実際の小説作品とリンクするような内容が出てくるかなど、期待が膨らみます。
T:濱田岳演じる作家の卵が、どのように江戸川乱歩になっていくのかも楽しみですが、このドラマの醍醐味はその世界観。犯罪がはびこり、ヒーローの誕生を待ち望んでいる20世紀初頭の世相を、緻密なセットや衣装で見事に表現しています。全編を包むデカダンスな雰囲気もいい。
S:新たに始まった大河ドラマ「どうする家康」(NHK)は、脚本と演出が合っていないような気がします。マンガのコマ割りのような大胆な場面展開や鋭いセリフなのに、なんだかのっぺりしている。映像として立体化されていない印象です。
I:ロゴにぶっ飛びました。前作「鎌倉殿の13人」も、初めての横書きとか、算用数字が入っているとロゴが話題になりましたけれど、「どうする家康」のロゴはそれ以上。なにか仕掛けもあるみたいです。家ではドラマを見ながら、「どうした家康」「どうなる家康」とツッコミを入れています。

滋味だから期待
地味ながら期待

T:そのほか、個別に挙げたい作品があればお願いします。
I:月9の「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書」(フジテレビ)は、北川景子がちょっと変わった元裁判官のロースクール教師を好演。あまり優秀ではない学生らが司法試験を前にもがき成長していく群像劇として楽しめますが、検察と弁護士の関係とか、黙秘権の意味とか、けっこう学ぶところも多いドラマです。
N:私は2本。ひとつは、ドラマ24「今夜すきやきだよ」(テレビ東京)。漫画原作を元に、恋愛体質のあいこと、アロマンティックのともこの共同生活を描いています。女性同士が食べ物を通じながら共同生活を送る様子は「作りたい女と食べたい女」(NHK)を思い出させますし、アロマンティックの登場人物がいるということでは「恋せぬふたり」(NHK)を思い出させます。もちろん、両作品とも違った良さがあります。「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(2020年、テレビ東京)を手掛けた本間かなみさんの企画は、今回もいいところをついているなと思いました。もうひとつは、プレミアムドラマ「我らがパラダイス」(NHK)。登場するのは超高級老人ホームのスタッフとして働く女性たち。自分自身の親の介護問題をそれぞれ抱えており、ある企みが明らかになっていきます。高齢社会の「格差」問題に鋭く切り込む時代性と、サスペンス要素も交えたストーリーで見応えがあります。
J:ドラマチューズ!「夫を社会的に抹殺する5つの方法」(テレビ東京)を家族が“倍速視聴”しているのを眺めていて、あまり倍速を感じさせない点が多いなと気づきました。うがった見方かもしれませんが、この作品は、若い人の間で定着した視聴方法に耐えられる作品づくりの実験をしているのではないかと感じました。ちなみに私は等速視聴。こちらのほうがやはり復讐劇の怖さが増します(笑)。
T:「しょうもない僕らの恋愛論」(読売テレビ)は、冴えない中年男性が主人公の地味なドラマで、視聴率は大丈夫かなと気になってしまうけれど、逆に無名の俳優を配し、昭和の雰囲気を出しており、とてもリアルな感じがして好感が持てます。ノスタルジーだけでなく、新しい恋愛にも期待したいと思います。
K:今シーズンの恋愛ドラマは、ベテラン脚本家のオリジナル作品が目白押し。「夕暮れに、手をつなぐ」は、方言まるだしの田舎娘とナイーブな音楽家の卵。「100万回言えばよかった」は、里親家庭で育った二人のうち男性が不慮の死を遂げ幽霊に。さらに「星降る夜に」は、産婦人科医と遺品整理士という真逆の立場で生と死に関わる二人の物語。いずれもひとひねりある設定でファンタジー的な世界に誘ってくれそうです。
T:今期も引き続きウオッチしていきましょう。ありがとうございました。

(2023年1月27日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています