★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第46弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、秋の注目ドラマを語ります!
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ベテラン脚本家によるオリジナルドラマ
作り込まれた世界観を堪能
T:10月も終わろうとしていますが、ようやく秋ドラマが出揃いました。すでに何話か放送している作品もありますが、注目作品を語っていきましょう。なんといっても今クールは三谷幸喜が久しぶりの地上波ドラマを手掛けています。
K:「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(フジテレビ)の舞台は実在の百軒店を彷彿とさせる、80年代の八分坂。作り込まれたセットが濃厚で猥雑で引き込まれます。掃き溜めのようなストリップ劇場を舞台に、脚本家も演者もそれぞれに訳ありでワガママなのですが、演劇や芝居というコンテンツが放つ独特の熱、舞台の固有の芸術性などがいい意味で炸裂し、カタルシスを感じさせてくれそうな予感。理屈より感じるドラマとして楽しみに見ています。
T:1980年代の渋谷。この時代のこの街を知っている人なら、ストリップ、小劇場といったアングラ的な娯楽や文化にかける若者たちの姿を、興味深く見られると思います。若い人に響くかどうかはちょっと疑問ですが、豪華俳優陣の熱量の高い演技だけでも一見の価値はあります。
Y:豪華キャストの数に圧倒された序盤を経て、キャラクターそれぞれの解像度が増すとともに、だんだん物語が動き出し面白くなってきました。群像劇を堪能できる展開を期待しています。
H:世代間を感じる作品ですよね。個人的には人物紹介に終始してしまった1話がもったいなかったですね。なんなんだこれは?という感じが続いて、タイパ世代ではないですけどもっと展開が欲しいと思ってしまった(笑)。話数を重ねることできっと面白くなるんだろうと思いますけど、重ねた「?」を取り戻せるか、三谷幸喜の手腕に期待ですよね。
T:脚本家に注目すると野木亜紀子が手がける作品もスタートしました。
N:「ちょっとだけエスパー」(テレビ朝日)は野木亜紀子の新作、しかもこれまでに映画『アイアムアヒーロー』で組んできた大泉洋主演ということで楽しみにしていました。野木さんらしい社会派の作品の雰囲気はありませんが、それでも、面接のシーンで就職氷河期世代の実感のこもったセリフなどもあり、関心を持ちました。
Y:野木亜紀子がSFで何をどう描くのかを楽しみに見始めました。大泉洋らしさ全開の主人公から目が離せなくなりそう。宮﨑あおいの不思議な魅力を久しぶりに改めて感じました。初回は謎でいっぱいのストーリー展開で、連ドラらしく毎週続きが待ち遠しい作品になるのではと思います。格好良いオープニング映像も良い感じです。
T:同じく、野木亜紀子が描くSFとは? まずはそこに興味を持って見始めましたが、SF的な要素はタイトル通り“ちょっとだけ”。人間味あふれるエスパーたちが、世界を救うためにどんな活躍を見せるのか今後が楽しみです。「人を愛してはならない」という社長(岡田将生)の言葉も大いに気になります。
H:やはり野木さんの描くセリフは仰々しくはないけど、きちんと視聴者に届くんですよね。心の声を聞いていくうちに、最初は感じた楽しさからすぐに気持ちが落ちていくあたりは、今の社会をよく表していたし、演技だけでなく、演出も含め見事でした。宮﨑あおいの謎など、本当に続きが楽しみな作品です。
K:人生が詰んでしまった40代の男が、成り行きでエスパーになり世界を救うミッションを負う、という荒唐無稽な設定ですが、大泉洋がピッタリのハマり役。自らの能力を自覚した彼が、世界平和という大仰な使命にどう向き合うことになるのか期待しています。突拍子もない設定なのにハッピーな予感が第一話からひたひた漂っていて、最後まで見届けたいと思わせるのはさすが野木亜紀子。ブランクを全く感じさせない宮﨑あおいも魅力全開です。
憎めないザ・昭和男子を竹内涼真が好演
朝を明るく彩る髙石あかりの魅力
M:火曜ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)は、「これぞTBS火曜10時!」というドラマ。大分のいわゆる“九州男児”の家庭環境で育ち、平成のトレンディドラマをこよなく愛して、時代遅れの価値観のまま社会人になった勝男(竹内涼真)と、幼少期から男性に尽くし愛されることで幸せになれると信じて自我を失った鮎美(夏帆)。二人の恋愛が破局するところから始まり、新しい価値観や生き方を模索し学び直していく物語ですが、竹内涼真のバブル時代がほんのり漂ういちいちオーバーな口癖とリアクションや、ちょいダサいファッションが二枚目感を醸しており、周囲に引かれるほどモテないキャラが新境地(笑)。最初は心底イラッとさせても、指摘されたり、はたと気づいたりして、自分と向き合い改心していく素直な勝男が憎めません。一方の夏帆自身もこれからどう自立していくのか気になりますね。生き方のアップデートを提示するという点では「逃げ恥」に次ぐドラマになりそうな予感です。
K:モテと完璧を自負していた主人公・勝男が、結婚直前に彼女に去られ、世の中から置いてきぼりになっていることに気づくことから物語が始まります。料理は出汁をひいて当たり前、などの思い込みを女性に押し付け、思いやりの欠片もなかったと愕然とするシーンは、真に迫っていて見応えがありました。勝男の勝手な思い込みは時代錯誤で、周囲を失笑させるほど滑稽なのですが、もがきながら自分に向き合い、殻を破ろうとする姿は憎めないですよね。基本コメディなのに、勝男のなりふり構わない真摯さにエールを送りたくなってきています。
N:近年、注目されている「男らしさ」「女らしさ」とは何なのかということや「性別役割分業」などを、さりげなくコミカルに問うているような作品だと思います。竹内涼真が演じる、料理は女がするものと思い、自分では何もやってこなかったという役にとても合っていると思います。彼が、少しずついろんなことに気づきながらも、すぐには変われないところを、毎回見守りたくなります。
H:原作が見事ということもありますが、3話でマッチングアプリでの出会いから男女の友情を見出すシーンは良かったです。言いたいことを言い合う状況には「男らしさ」「女らしさ」もなく、本音でぶつかったことで自分の気持ちにも気付きながら、相談できる異性としての存在を見つけることができたのは、これからの物語の重要なキーになりそう。まだ波乱はありそうですが(笑)。そしてやはり夏帆の演技は毎度素晴らしいです。
T:新しい朝ドラも始まっています。
K:連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)は莫大な借金を背負う没落士族の一家に生まれた女性が主人公。決して前途は明るくないのですが、とにかく仲が良くコミカルなかけあいに救われながら見ています。何より孝行娘、おトキちゃん(髙石あかり)のまっすぐな瞳と意思の強い表情に、吸い込まれそうな魅力があります。堤真一、北川景子、寛一郎など大物俳優の存在感が抜群でしたが、意外にも早々に姿を消して第二幕へ。時代の変化とともにいよいよ運命の人と出会うエピソードが楽しみです。
Y:オープニングのハンバート ハンバートの楽曲と、川島小鳥の写真が素敵で、数ある朝ドラオープニングの中でも名作ではないかと思います。今後、話が進むにつれてさらに胸に響くようになりそうです。阿佐ヶ谷姉妹のナレーションは、2人の空気感はそのまま、独特な形で視聴者と物語を繋いでいる気がして、作品にとても合っていると思います。
新進気鋭の脚本家が健闘
新たな形の“縁”に期待
M:金曜ドラマ「フェイクマミー」(TBS)は独身女性とシングルマザーのバディ、母親業の“アウトソース”というテーマが新しいです。会社を辞めたきっかけが“ワーキングマザー優遇”というあたりも、女性活躍推進法から10年という時世を感じます。東大卒の無職と元ヤンキーで社長という正反対の背景を持つ波瑠と川栄李奈がそれぞれキャラクターに馴染んでいて、子役の池村碧彩の演技も光っています。名門小学校のPTA役員といったステレオタイプなキャラクター展開はありつつも、ドタバタ劇だけには留まらない社会に対するアンチテーゼが盛り込まれ、これから波瑠と川栄の二人が“ニセママ契約”という関係を超えて友情を育んでいく物語になりそうで期待感たっぷりです。
N:脚本をTBSのコンテストで大賞を獲得した新人の園村三が担当しているそうですが、毎回、次が気になる展開で面白いです。お受験のために別の人に替え玉で親をやってもらうという設定は、実際にあったことと聞いて驚きました。学校を巡る問題など現実と重なる部分もあり、見応えがあります。
T:日曜ドラマ「ぼくたちん家」(日本テレビ)はゲイのシニア(及川光博)と教師(手越祐也)、学校や家族に馴染めない中学3年生(白鳥玉季)という不思議な縁でつながった3人が、偏見や困難に向き合い楽しく生きていこうとする姿が、ユーモラスに、そして温かく描かれています。脚本は日テレシナリオライターコンテスト2023年度審査員特別賞を受賞した新人の松本優紀が担当。若い感性が生んだ新しいタイプのホームドラマの予感。今クールの拾いものの一本になるかも。
H:個人的に今期1位ですね。セリフが瑞々しくて面白い! また、ゲイの方の結婚相談所の渋谷凪咲もいい役どころ。クスッと笑える彼女のセリフも効いていて、主人公を動かすきっかけになっているし、立場が逆転して主人公側が勝手に偏見を感じていたり、その構図も新鮮です。白鳥玉季は映画『流浪の月』で一躍注目を集めた若手俳優。1話にはそのオマージュ的なシーンもあったりして、今回も大変な役どころを、見事に演じていると思います。どんな展開があるのかわかりませんが、このまま突っ走ってもらいたい!
王道からイマドキミステリーまで
若手実力派俳優の活躍に注目
T:その他個別に挙げたい作品があればお願いします。
I:日曜劇場「ロイヤルファミリー」(TBS)は競走馬をめぐるさまざまな立場の人たちが織りなす人間ドラマ。JRA全面協力ということで、競馬場のバックヤード、トレーニングセンター(トレセン)など、ふだん見られない場所にも惜しげなくカメラが入っていて、競馬好きの食指が動きます。レースのシーンも迫力があって、演出・塚原あゆ子の持ち味であるダイナミックな画作りがテーマにピッタリ。弱者が勝利するのが「日曜劇場」の王道ですので、今後の展開を楽しみにしています。最終回は有馬記念当日になるのかな。
Y:「小さい頃は、神様がいて」(フジテレビ)は岡田惠和脚本ならではの印象的な心に残る台詞が、今作からも生まれるだろうと期待しながら見ています。レトロマンションの住民たちのほどよい距離感のなか、離婚を考える夫婦と子ども、同性カップル、リタイア後の夫婦といった家族・パートナーシップのあり方をそれぞれの目線から描き、視聴者が多様な立ち位置から共感できるような内容になっていきそうです。
M:ドラマプレミア23「シナントロープ」(テレビ東京)はハンバーガーショップ「シナントロープ」でバイトする8人の若者たちを軸にした“青春群像ミステリー”。会話劇が面白いうえ、しりとりのような独特の映像ワークや音楽のセンスが良く引き込まれます。
H:同感です! 1話のオープニングからの疾走感は痺れました。
M:さらに個性的で影のある登場人物が放つ危うい存在感と対照的に、コメディ要素の軽やかさが魅力的。ユルい強盗未遂事件を発端に、ヤバいやつらの物語がどう転んでいくのか楽しみです。水上恒司、山田杏奈、坂東龍汰、望月歩など実力派の若手俳優が一堂に介しており贅沢すぎます。月曜日から極上なドラマが見られて幸せです。
H:まだ全然全貌がわかっていない状況で物語が不穏な進み方をしていきます。その不安定さは、若さに由来する部分も大きいと思う。懐かしく思う気持ちで、なんとなくみんなのことを知った気になってしまって、主役周りの8人にすでに愛着があります(笑)。
T:ドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」(NHK)は柴犬専門誌の編集部員のドタバタぶりをコミカルに描いた、NHKにしてはかなり緩い感じのドラマです。見どころは何と言っても、登場する柴犬の可愛らしさ。特にメインの福ちゃんのあどけない表情は、犬好きの心を鷲掴みにすること間違いなし。ペットで癒されたい人にオススメです。
H:ドラマ特区「死ぬまでバズってろ!!」(毎日放送)は承認欲求を満たすためにSNSでバズることだけを考えてしまうダークヒーロー(自称)を描いています。偶然撮影した事故映像がきっかけにバズることだけを考えてしまうようになるという、今の時代ならではの物語。人気漫画が原作ですが、ドラマならではの表現に期待です。物語に合わせたSNSでの告知手法にも注目しています。
T:同じ関西圏から「修学旅行で仲良くないグループに入りました」(朝日放送テレビ)を挙げたい。今クールで放送されるBLドラマは「25時、赤坂で Season2」「PUNKS△TRIANGLE」など、なんと6本。すっかり1つのジャンルとして定着していますが、その中でBL初心者にオススメなのがこのドラマ。イケメン4人衆の班に入った平凡な高校生が、修学旅行中にドキドキハラハラの恋愛を経験する様子をコミカルに描いています。BLになじみがない人も楽しく見られると思います。
Y:土曜ドラマ「良いこと悪いこと」(日本テレビ)は「考察系ミステリー」として、リアルタイム視聴の盛り上がりを期待した作りがヒットに繋がるかを興味深く見ています。オープニング映像が少しずつ変化するなど、手が込んだ工夫にも注目です。
H:木曜ドラマ「推しの殺人」(読売テレビ)とドラマ24「ひと夏の共犯者」(テレビ東京)は、どちらもアイドルが殺人犯となる物語で人気漫画が原作です。時代を描くという意味で時期が被ったこともあると思いますが、同じ「アイドル(推し)×殺人」でも視点が違い、どちらも見どころが多い。個人的に驚いたのは「推しの殺人」の横田真悠。今までもいい演技をしていましたけど、今作でもいかんなく力を発揮しています。
T:今期はベテランから新進気鋭まで脚本家に注目が集まっているように思います。そのなかで新人脚本家は皆さん素晴らしいスタートを切っています。ベテランがどう力量を発揮してくるのか、引き続きチェックしていきましょう。
(2025年10月24日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています
