★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第47弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、秋の注目ドラマを総括します!
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古い価値観から一歩ずつ踏み出す強さ
世界がちょっとずつ良い方向に行く希望
T:2025年も残りわずか。秋ドラマが最終回を迎えています。話題に上がる作品も多かった印象ですが、さっそく総括していきましょう。
K:火曜ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)は古い価値観に囚われていた二人が生き直そうともがく姿、とりわけ主人公・勝男(竹内涼真)が根底から変わっていくプロセスが痛快でした。昭和的な男性像を引きずりながらも、真っ直ぐで行動力があり、ウザいけれど憎めないキャラを演じた竹内涼真、ハマり役でした。
N:男性側の弱さを書いた作品かもしれないですね。人が素直に変わっていこうとする姿は単純によかったです。竹内涼真演じる勝男はピッタリで、最後まで変わらない部分も描かれているのが意外とよくて、彼の代表作になったのではないでしょうか。
K:鮎美(夏帆)への未練を断ち切るところまでひっくるめて彼の自己変革が完結したと思います。それぞれの道を行くラスト映像は、寂しさよりむしろ心地よかったです。
H:鮎美は序盤のイメチェンに驚かされつつ、終盤ヨリを戻そうとするけれど、最後はやっぱり自分のやりたいことを見つけて進んでいく。今まで我慢してきたことも自分の中にあるものとして受け入れて、一歩踏み出す姿に強さを感じました。夏帆の演技も素晴らしかった。会社の同僚たちもいいキャラで、今期No.1の話題作で文句ないですね。
Y:「ちょっとだけエスパー」(テレビ朝日) は主演の大泉洋はじめ全員が当て書きという、メインキャストそれぞれの良さが存分に生かされ、回を重ねるごとに深まるテーマはとても見応えがありました。放送終了後の24時にNetflixで世界同時配信される形式で、地上波連ドラでは珍しいといわれるSFを、日本の実力派キャストを揃えて独創的な作品に仕上げ、世界に向けて発信する挑戦的な試みだったのではと思います。愛とは、生きるとは、という通底するメッセージは広く世界でも受け入れられるのではないでしょうか。
K:軽いタッチのSFコメディかと思いきや、最後にはなかなか深遠なテーマが描かれていました。自分に与えられた能力を、正しいと思うことにちょっとだけでも使い続ければ、世界は少しずつ良き方向に変わっていく。バタフライエフェクト的な、そんな希望がジワジワと湧いてきました。ヒロインの四季を演じた宮﨑あおいがとてつもなく魅力的でした。表情や目線だけで、ふたりの四季を演じ分けていたのが見事。今後の活躍に期待が高まります。
N:最初はコミカルに始まりましたが、実は野木亜紀子のテイストがいろんなところで感じられた一作でした。大泉さんの映画『アイアムアヒーロー』のヒーロー感、『ラストマイル』の人が生きることに疲弊したときの選択、『MIU404』にあった、人が分岐点で何を選ぶのかなどなど。
T:予測不可能な展開で、しかもSF的な要素は少なめ、コミカルなシーン満載で最初はよくできた娯楽作品として楽しめましたが、後半はタイムパラドックスの描写がメインになってきて、私は純粋に物語に没頭できなくなってしまいました。
ほのぼののなかにあるリアルな切なさや弱さ
自然に溶け込む優しく強いメッセージ
K:このクールでは夜ドラ「ひらやすみ」(NHK)に、一番ハマりました。「団地のふたり」(NHK、2024年)に続く、松本佳奈演出の世界観に痺れました。登場する阿佐ヶ谷の街並みがリアルなせいか、ヒロト(岡山天音)となっちゃん(森七菜)が本当に住んでいるような気がしてきます。阿佐ヶ谷姉妹が本人役で登場したり、ドラマと街の魅力がリンクし、放送中から町おこし的ムーブメントになるなど話題性も抜群でした。
Y:漫画原作の魅力を生かし、夜ドラの15分のフォーマットにちょうど良いリズムの作品になっていたと思います。優しく澄んだ空気が画面から染み出てくるようでした。フードスタイリスト飯島奈美さんによる美味しそうな食事も、作品の彩りになっていました。特に、森七菜演じる美大生、なっちゃんの自然体の魅力が際立ち、良い役者さんだなと改めて感じました。もっともっとこの物語を見続けたいな、という気持ちです。さっそくお正月の再放送が予定され、反響がうかがえます。
N:岡山天音、森七菜はもちろんのこと、吉村界人と吉岡里穂もみんなうまかったですね。そして、ヒロトにしても、ヒデキ(吉村)にしても、仕事が思うようにいかない様子がすごくリアルで、そのつらさ、弱さをしっかり描いているところに個人的にはグッときました。年明けに再放送で一気見できるのも楽しみです。
K:森七菜がうますぎますね。地方から出てきた美大一年生、自意識と不安感のバランスが絶妙で、本当にあんな子がいそう。やさぐれていても癒しを与える存在感が秀逸で、その演技力に舌を巻きます。左手で漫画を描いていたので、左利きの本人がペンを持っているとわかり、演技へのこだわりに驚きました。従兄弟のヒロトとのベタベタしすぎずほどよい距離感が心地よく、ずっと見ていたかったです。ですが二人の暮らしはほのぼのとしているのに、そこはかとない切なさが底流にあり、いつかは終わる夏休みの如くドラマも終わり、すっかりロスになってしまいました。
T:「ぼくたちん家」(日本テレビ)はちょっと現実離れしている登場人物ばかり。しかし、彼らが抱えている問題をさり気なく、そしてコミカルに描き、見る者に希望を持たせるような物語の展開は見事でした。強いメッセージを含んだセリフも多いのですが、それを会話に自然に溶け込ませた脚本が素晴らしかったです。毎回、温かな気持ちにさせてくれた、今期一番のドラマです。
H:同じく今期ベストだと思います。登場人物がそれぞれ色んなものを抱えていて、ちょっとずつ関わりながら、解決には至らなくても寄り添い進んでいく姿に勇気をもらいました。松本優紀の脚本はアッパレでした。魅力的なキャラクターが揃っていて、セリフで惹きつける。連続ドラマの醍醐味を味わいました。そしてそのキャスティングの妙も見事。神出鬼没な百瀬(渋谷凪咲)も効いていましたよね。白鳥玉季は放送中に、ビジュアルに驚く映画『金髪』も公開され、どんどん演技の幅が広がっている感じがします。さらなる飛躍を期待したいですね。
大河ドラマの新しい挑戦
演劇界の熱気が再現された独特なドラマ
K:大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)はこれまでの大河ドラマと一線を画す、合戦のないビジネス系の歴史ドラマ、新鮮で見応えがありました。蔦屋重三郎(横浜流星)がクリエイターたちの才能を発掘し育てプロデュースし、そこからヒット作が次々と生まれるさまは痛快でした。写楽など、史実の曖昧な人物をフィクションに仕立てて物語を演出したのも面白かったです。また、錦絵や美人画を描くプロセスが映像化され、版元と摺師の関係などもリアルで、江戸の美術史としても楽しめました。
T:これまでの大河ドラマとは違って、庶民の生活や文化に焦点を当てたところが興味深かったです。特に序盤の吉原の描き方はかなり踏み込んでいて、NHKとしてはかなり大きな挑戦をしたと思います。横浜流星は主人公にピッタリの配役でしたが、感情を表に出した歌麿役の染谷将太の演技も見応えがありました。
K:「もしもこの世が舞台なら楽屋はどこにあるのだろう」(フジテレビ)はかつて経験したことのないような、独特の視聴感を味わったドラマでした。主人公の演出家・久部(菅田将暉)はいけ好かない悪党で、このキャラを演じ切った菅田将暉に、鬼気迫るものがありました。久部に巻き込まれ芝居に関わることになる人間たちもクセが強烈すぎて、なかなか共感しきれませんでした。けれどその極端さや過剰さに、80年代の演劇界の異様な熱気が再現されていたように思います。
I:演劇のような仕掛けでテレビドラマを描くのが三谷幸喜の脚本の真骨頂とすれば、今回は真逆のチャレンジ。演劇に魅せられた人たちの情熱というよりは、独りよがりな久部の上昇と転落に、最後ちょっとだけ希望の物語だったのかな、という気がします。テレビドラマで演劇の世界を描くのは難しいのかなあ、とも思いました。
K:最終話の「上演するつもりのない芝居の稽古」の風景は、一転してのどかで平和で幸福感にあふれ、その反転した世界はショッキングでした。それが三谷幸喜の中にある演劇の本質なのか、クリエイターとしての初期衝動なのか、考えさせられます。自転車のカゴにシェイクスピア全集を乗せ、再度疾走しはじめる久部の背中を見ていたら、熱いものが込み上げてきました。見る人を選びそうではありますが、演劇好きには強い印象とたまらない余韻を残すドラマだったと思います。
H:私は正直なじめなかったですね。無理矢理引っ張り出された三谷幸喜の怒りをぶつけられた感じです(笑)。もちろん全然そんなことは無いのかもしれませんが……。やっぱりどこかに共感をしたかったけど、それが難しい作品だと思ってしまいました。見る人を選ぶ作品と言われるとそれまでですが、期待していた分、残念な気持ちも大きかったです。
高揚感、緊迫感……
徹底した考察ドラマにも注目
T:今期は話題作が多かったですね。では、個別に気になった作品があればお願いします。
Y:土曜ドラマ「良いこと悪いこと」(日本テレビ)は初回から謎を大量に散りばめ、オープニング映像や字幕などにも仕掛けを加えながら、視聴者の考察を促す作りが徹底していました。配信時代における連ドラの盛り上がりをいかに生み出すかの工夫が興味深かったです。SNSでの反応が盛り上がり、ウェブ記事などでも多く取り上げられているように見えましたが、全話配信はHulu独占で、放送の途中から情報を経た潜在視聴者を取り込めたのか、どのくらいの効果があったのかなどが気になるところです。
T:日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS)はJRAが全面協力したリアルで迫力あるレースのシーンは、スポ根ドラマを見ているような高揚感がありました。一方で、夢を追い続ける人々の挫折もきちんと描かれていて、ドラマとしての見応えがありました。役者陣も豪華でしたが、これまでのイメージを破った高杉真宙と中川大志の演技が特に見事でした。
H:木曜ドラマ「推しの殺人」(読売テレビ)は、序盤はかなり引き込まれました。アイドルとして人気が上がるたびに緊迫感が高まっていく構造は見事でしたね。ただ、終盤にかけては停滞感を感じました。実際には無理がある状況も見守りましたが、整合性がかなり崩れてしまったように感じました。終わり方もスッキリできなかったのが残念でした。
T:もうひと作品、「あなたを殺す旅」(FOD)はBLドラマにしては珍しくヤクザの世界を描いたもので、そのせいなのか放送はされずネット配信のみ。元々任侠映画などでは暗に同性愛的な結びつきを感じさせる描写があったのですが、それをBLとして真っ正面から描いたのは画期的。かといって重いテイストではなく、むしろ爽やかに描いている点も好感が持てました。
Y:放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)についても一言。テンポよい会話劇に加え、画面の陰影が絶妙で、物語も映像も興味深く、毎日楽しみに視聴しています。牛尾憲輔による劇伴とも相まって、作品の独特な世界観が出来上がっていると感じます。直近では、第57回でトキ(髙石あかり)が怪談を語るため、敷居をまたぎ薄暗い部屋から明るいヘブン(トミー・バストウ)の部屋に入る表現に目を奪われました。これからの展開がさらに期待されます。
T:「ばけばけ」についてはまた終わったタイミングでいろいろ感想も出てくると思います。2025年もさまざまな作品に出会いました。2026年も素敵なドラマに出会えることを楽しみにしましょう。今年もありがとうございました!
(2025年12月19日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています