★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第43弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、春ドラマを総括します!
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俳優とキャラクターの魅力的な融合
唯一無二の安心感
T:今年は早くから本格的な暑さが続いていますが、4月からスタートした春ドラマが最終回を迎えました。さっそく総括していきましょう。
K:「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ)は千明(小泉今日子)と和平(中井貴一)、昭和バブル世代の二人が、令和のいまアラカンになり、老いやリタイア後の生き方を模索しながら現実に向き合う姿に、同世代の視聴者の共感を得たと思います。特に千明と小泉今日子のキャラクターが重なって見え、魅力的でした。ふたりの丁々発止のやり取りはコメディのようなのに、ふとした本音にホロリとさせられるのも、さすが岡田惠和脚本の真骨頂。 独身の男女が、時を重ねて恋愛より限りなく家族のようなものになっていくのも、ひとつの理想形に見えました。鎌倉という舞台設定も効いていますね。海の見えるレストランや江ノ電の改札での遭遇などそれだけで絵になるので、日常とファンタジーが絶妙なバランスで描かれていたと思います。
M:職場で、家族で、男女で、年齢を重ねることで立ち現れる悲哀。現代的で都会的な「老い問題」を、リアリティあるエピソードと機微のある会話で容赦なくえぐる一方、物語全体の絶妙な軽やかさと優しい眼差しが、寄る辺ない中年の私には驚くほど響き、毎回救われるようでした。小泉今日子を中心に俳優陣がみな魅力的で、本当に役を生きているようでもあり、鎌倉の街に実在してほしいと思わずにはいられなかったです。
H:登場人物がリアルタイムに重ねた時間をそのままに描いていて、岡田惠和の脚本もさることながら、アドリブを含めた出演者の演技に驚嘆ですね。視聴者にも安心感を与えたドラマだったと思います。
K:シリーズを重ねて、もうどんでん返しや意外な結末を期待したりしない、ずっとあの長倉家のままであってほしいと思ってしまうのも、唯一無二のドラマだと思います。
M:ドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」(NHK)は病を抱えて生きる主人公(桜井ユキ)が、団地住まいや心ある人たちとの出会いを通じて、自分にとって大切な暮らし方をひとつずつ見つけ歩んでいくドラマ。非正規雇用独身女性の貧困や将来への不安、健康で強いことが当たり前に求められる社会の生きづらさ、家族の分かり合えなさや息苦しさ、ケアを担った人の傷つき。普段見えないことにされている市井の人々を温かく包む物語でした。血の繋がりはなくても、人は人を信じて、弱いままで寄り添い合って、コミュニティを築いて生きていくことができるのだと希望を感じました。
K:「団地のふたり」に続き、団地というコミュニティのあたたかさが心に沁み入るドラマでした。持病を抱える主人公が薬膳料理をキーワードに、体を気遣いながら旬の食べ物を取り入れ丁寧に暮らしていきます。半歩くらいずつゆっくり前進し、活力や自信を取り戻していく主人公の姿に静かな感動があり、拍手を送りたくなりました。漫画原作で、作家自身の実体験が反映されているとのこと、なるほどと感じます。風のような存在感で優しさを湛える料理の指南役、司を演じた宮沢氷魚の繊細な演技が秀逸でした。
国際共同制作の“違和感”を活かす
今期最注目の愛すべきラブコメ
Y:金曜ナイトドラマ「魔物(마물)」(テレビ朝日)は韓国でヒットドラマを制作するスタジオとの共同制作で注目していましたが、舞台が日本であることと、韓国的な要素が相容れない部分があるように見えました。各話のサブタイトルが韓国料理の名前で、物語のカギにもなっているのですが、葬儀の場面でキムチチゲが出されていた(しかも怒りとともにぶちまけられる)ことをはじめ、違和感がある場面も多かったです。インパクトの創出に必要な演出だったのかもしれず、共同制作の一つのパターンとして有用な要素もあるかもしれませんが、日本文化や社会背景も生かしながら、韓国的な良さを取り入れる方法もあったのではと個人的には思います。とはいえ、謎が多い展開と最終回で明らかになる事実、主人公が新たな一歩を踏み出す結末、オダギリジョーが登場する遊び心など、よかった点もいろいろありました。
H:確かに違和感を覚える部分はありましたが、画作りや質感はドラマのストーリーにも合っていたし、韓国ドラマの“それ”も、うまく融合出来ていた部分はあったと思います。あとは北香那の起用は新しい発見でした。これからの飛躍に期待したいです。
N:最初は禍々しいドラマかと思って見始めたのですが、塩野瑛久の演技が怖すぎて、3話くらいから次が気になって仕方なくなりました。最後まで見ると、女性たちの連帯によって得体のしれない「魔物」の正体が見えたりして、意外にも後味が悪くなかったとは思いました。
N:日曜劇場「キャスター」(TBS)は毎回、多彩なゲストが出ていて豪華ではありましたが、キャストが多すぎるばかりに、なかなか主要なキャラクターの深みが見えにくいところがあるなと思いました。前半は実際にあった出来事を思い起こすような物語になっていましたが、後半は急に陰謀や闇が展開されていたので、駆け足になっていた気がします。
H:ゴシップ記事の影響は少なからずありましたよね。リアルとドラマ内を混同するのは良くないとは思いますが、どうしても地続きに見てしまう部分もありますから。脚本が急遽変更されたかはわかりませんが、内容としてもそれを払拭するだけのパワーは残念ながら感じられませんでした。
H:「波うららかに、めおと日和」(フジテレビ)が今期最もSNSを中心に話題になったドラマではないでしょうか。王道ラブコメと言ってしまえばそれまでですが、若い世代にもキュンポイントが多い作品として受け入れられました。ラブコメのターゲットではない私も恥ずかしながら見てしまいました(笑)。切り抜きやSNSをうまく使い、若い世代に訴求できたことは良かったと思います。
T:前の座談会で「今期の拾いもののドラマの1つ」と言ったのですが、まさに最後まで笑わせてくれ、ほっこりとさせてくれる作品でした。本田響矢も心優しい海軍中尉を魅力的に演じていましたね。今期の中では異彩を放っていた愛すべきドラマでした。
多彩な演出で飽きさせない
最終話の展開に明暗か
T:その他個別にあればお願いします。
H:「あなたを奪ったその日から」(関西テレビ)は娘を亡くした母親が、死亡原因となった食品会社の娘を誘拐してしまうという衝撃的な展開からスタートしました。2つの家庭がお互いに罪を抱えながら、子どもを失うということの喪失感に向き合います。10話で真相が明らかになってからの急展開は少しもったいなかった気もしますが、全話を通して心の痛みを丁寧に描いていたと思います。
M:ドラマプレミア23「夫よ、死んでくれないか」(テレビ東京)はショッキングなタイトルを裏切らない歪んだ3夫婦でした。夫を含め登場する男たちがとにかく不気味。歪んだ男たちの被害者とはいえ、妻たちも過去に大罪を犯し各々冷酷で身勝手さがある。突っ込みどころ満載で恐怖を通り越して笑いを誘うヤバすぎる夫(加賀美弘毅)の行動や、不穏なカメラワークに音楽、時々挿入される8ミリカメラを思わせる粗い映像、ホラー映画を彷彿させる静謐な空撮、一転ほのぼのした番宣や番組の煽りコメントなど多彩な演出も良し。最後のトドメでオチは熊! ザラッとした後味の最終回も含め、飽きさせないつくりで後半に最後まで楽しませてもらえました。
T:同じテレビ東京からドラマ24「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」(テレビ東京)は個人的に今一番推している野村康太が出演しているので、とても楽しみにしていました。しかし、途中までは彼の透明感のある演技と、松下由樹の身の毛もよだつような迫力ある演技は見応えあったのですが、ラストがちょっといただけませんでした。感情移入ができるような結末を見たかったです。
K:火曜ドラマ「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(TBS)は誰しも関わらなければならず、そして終わりのない家事を巡る物語。家族が心地よく幸せに暮らすために、家事を生活の中心に据えると決めた専業主婦の志穂(多部未華子)が、最後までブレなかったのが良かったです。育休中のエリートパパ(ディーン・フジオカ)も、キャリア志向のワーママ(江口のりこ)も、家事に対する想いの強い志穂に救われ、助けられます。家事・育児に対するスタンスが異なる人たちが敵対せず、孤立もしない。そして対岸の火事(家事)だからと見て見ぬふりをせず、橋をかけ助け合うようになっていくので、清々しく見終えることができました。悩みを抱えながらも意志の強い母を演じた多部未華子が愛らしく、好演が印象に残りました。
Y:連続ドラマW「I,KILL」(WOWOW)はWOWOWと松竹・松竹京都撮影所による力の入った作品でした。時代劇と「群凶」と呼ばれるゾンビの本格的な描写の掛け合わせで、歴史ものとサバイバルスリラーの両面で興味深く見ることができました。時代劇の制作力と練られたゾンビの造形からなる画面の迫力だけでなく、実際の時代背景を基にしつつ、徳川家の陰謀など虚実を織り交ぜた脚本も意外性があり面白かったです(グロテスクな描写は好みが分かれるかもしれませんが…)。もっと話題になってもよいのにと思いました。各回が英語のナレーションで始まるなど、海外も視野に入れた制作と考えられ、今後の展開に期待したいです。
T:水曜ドラマ「恋は闇」(日本テレビ)は主演が志尊淳、岸井ゆきのというちょっと手堅いキャスティングながら、最後まで連続殺人者の正体が誰だかわからないミステリーにじわじわと引き込まれました。また、恋に落ちると冷静な判断力を失ってしまうというタイトル通り、ラブストーリーの部分にも共感できました。
Y:まだ途中ですが連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)にも一言。戦後80年の節目に朝ドラで戦争を正面から描くことの意義が伝わります。特に、婚約者の戦死の報せを受けた場面の河合優実の演技は圧巻でした。
H:同感です。あの河合優実の演技は素晴らしかったですね。その熱に引っ張られるかのように、制作陣のこだわった演出も良かったです。
Y:物語はちょうど戦後に移ったところですが、今後の登場人物たちの人生の展開が楽しみです。
T:今期は前期に比べて、これぞ!というようなドラマが少ない印象でした。7月クールは、ぜひ見応えあるドラマを期待したいですね。
(2025年6月27日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています