★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第45弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、夏ドラマを総括します!
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豪華キャスト、読めない展開、遊びとミステリーの絶妙バランス
これぞ連ドラの醍醐味
T:もうすぐ10月というのに暑い日が続いていますが、夏ドラマが最終回を終えています。総括していきましょう。
K:「しあわせな結婚」(テレビ朝日)は夫の死にまつわる秘密を抱える妻のネルラ(松たか子)、売れっ子の辣腕弁護士の夫(阿部サダヲ)、個性的な妻の男系家族たち、妻に思いを寄せる刑事などキャストそれぞれが魅力的で、最後までどこへ行くのかわからないストーリーに引き込まれ、連続ドラマの醍醐味を味わいました。
Y:同じです。松たか子と阿部サダヲの組み合わせの魅力を存分に味わいながら、最後まで毎週次回が楽しみになる作品で、連ドラの良さを再認識しました。「しあわせな結婚」のタイトルバックが入るタイミングと構図が毎回秀逸で、とくに最終回のラストシーンは二人の関係性を映し出しているようで見事でした。Oasisの主題歌の歌詞と物語・場面がリンクする感じも、回を重ねるごとに深まった気がします。結末が分かった今、もう一度はじめから見直して、登場人物たちの心の動きを追ってみたい気もします。
M:サスペンスとラブストーリーとコメディがベストミックスされた斬新さと、演劇的でありながら、音楽のセンスの良さや映像美に溢れ、家族の住まいや料理、衣装などのスタイリングのお洒落さ、各回違うタイトルの入れ方など随所にこだわりを感じました。登場人物の少なさもあってか謎解きは比較的予定調和となっていった感はありますが、逆に引っ張りすぎない展開でサスペンスからラブストーリーへ重心が変化していったように感じました。松たか子演じるネルラのとぼけていながらミステリアスで、つかみどころのない“ヤバい女”が放つ悪魔的な魅力。そんな妻に心奪われる夫・幸太郎を演じる阿部サダヲ。これまでに何度も共演してきた二人の安定感に加えて、クセの強い共演者たちのそれぞれの個性が光るユニークかつクオリティの高いドラマだったと思います。
K:特に夫を演じた阿部サダヲは持てる力を妻のために注ぎ、愛し続けようとする姿に心打たれるものがあり、新境地を魅せてくれました。謎めいていて掴みきれないネルラも、冒頭から独特のクセを垣間見せてコメディ要素を散りばめ、難しい役柄を上手く演じていたと思います。 ミステリーとしての結末にはやや消化不良感があったものの、ネルラのあの個性的な寝相で締めくくるエンディングは、夫婦のありようを象徴的に映しだし、なるほどと思わせるものでした。
N:同じく松たか子、阿部サダヲをはじめとして、日本を代表する俳優たちの演技が楽しみな作品でした。キャストを見ていると、坂元裕二(脚本)のドラマ「スイッチ」(2020年、テレビ朝日)のことも思い出します。ミステリーとしても毎回どうなるのか先が読めず、最後の最後まで、ネルラがどのような罪を背負っているのかわからない展開で、飽きずに見ました。一方で、前半にはネルラたち家族が温泉に行ってカラオケをする遊びのシーンもあったりして、意外と緩急のあるドラマでした。ちょっと変わったドラマだったなと思います。
T:コミカルな会話シーンと、それと対照的なサスペンスタッチのストーリー。それに、役者陣の達者な演技が加わり、上質な娯楽ドラマを最後まで楽しめました。個人的には、独身主義を貫いてきた中年男性が、いわくつきの女性とめぐり逢い、まさに「しあわせな結婚」にたどり着く姿に、心地良い爽快感を抱きました。
Y:「#脚本とともに観てみよう」のハッシュタグで、大石静の脚本とともに各話のシーンを視聴できる動画がソーシャルメディアで公開されていたのも、面白い取り組みだったと思います。脚本に目を向ける試みを別の作品でも見てみたいです。
苦悩の先に見える希望
支え合う二人が世界を変える
M:「愛の、がっこう。」(フジテレビ)は教師とホストというきわどい設定を超える純愛で、回を追うごとに愛実(木村文乃)と大雅(ラウール)の切ない恋模様から目を離せなくなってしまいました。抑圧的な愛実の父とモラハラに耐える母、陰湿で荒んだ職場や生徒、薄気味悪い婚約者、金をせびる母親など重苦しい人間関係に当初はどうなることかと思いましたが、二人のひたむきさに周囲が変化し次第に応援者となっていき、最後には二人が結ばれ、かつ、誰もが悪者ではなくなるという全方位ハッピーエンドに救われました。荒ぶる心を鎮めるためにバジルをむしって嗅ぎ、愛実を逃がすため夫に殴りかかるという母・筒井真理子の狂気にハラハラしっぱなしだったので、ついに夫に三行半を突き付け改心に至らせた彼女にもハッピーエンドが訪れて本当に良かったです。木村文乃の品のあるどんくさい演技やラウールの繊細さとお茶目さのある演技に加え、脇を固めた俳優陣それぞれに人間味があり、見応えのある恋愛ドラマでした。
K:主人公・愛実の親友を演じた田中みな実が秀逸でした。きっぷがよくクレバーで、友情にあふれた女友だちの存在が光っていました。垢ぬけなくて危なっかしい愛実の後ろに常に彼女がいることで、愛実というキャラクターに肩入れしたくなる役割を果たし、物語に深みを与えたと思います。また、自分の名前も書けないホストと、凄惨な恋愛体験を持つ不器用な女教師。この組み合わせのラブストーリーは下手をするとただ痛いだけになってしまいそうでしたが、主役二人の繊細な演技が見事で、ピュアな恋情を立ち昇らせていました。特に売れっ子ホスト役を存分に演じながら、悲しみを湛えたラウールのキャラクターに惹きつけられました。
T:朝ドラも最終回を迎えています。連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)は、前半はヒロインの男勝りな姿が軽妙に描かれていましたが、戦争を境に、のちの夫になる漫画家の苦悩を描いた物語になっていきました。しかし、それがかえってより見応えのあるドラマになったと思います。特に「逆転しない正義」を見出そうとする漫画家の姿が、新しいタイプのヒーロー誕生につながっていくところの描写が圧巻でした。また、戦後80年の今年、戦争の悲惨さを静かに伝える作品にもなりました。
H:夫婦が歩んだ激動の時代を、厳しく、優しく描ききりました。いろんなシーンに、みんなが知っているアンパンマンの世界と繋がっているような登場人物がいて、ワクワクしながら見ていました。戦時中のシーンはストーリーの軸が北村匠海演じる、柳井嵩のほうにシフトしてしまいましたが、それでも今田美桜演じるのぶが存在感を出していたので、後半の優しい物語に違和感なく入っていけたのだと思います。実際のアニメやファンミーティング、特別編など関連番組も多く、非常に盛り上がった作品となりました。
ひとりで、パートナーと、家族と、友だちと、仲間と
リアルを見つめる多様な視点
T:その他、個別にあればお願いします。
Y:土曜ドラマ「ひとりでしにたい」(NHK)は40歳を目前にした主人公(綾瀬はるか)が模索する生き方だけでなく、老後の夫婦、親の介護、子を持つ女性と主婦、といった多様な視点で、「どう生きていくか」を考えさせられるドラマでした。原作マンガのコミカルな部分を生かしながら、実写としてリアリティのある表現も織り交ぜ、多様な視聴者に問いかけていたように見えます。「一人で生きて、一人で死にたい」と宣言しながら、一方でどうなるかわからない不確定な未来を垣間見せるようなラストも、現実的な感じがしてよかったです。
N:土曜ドラマ「母の待つ里」(NHK)はカード会社の企画で、一泊二日、50万円で、ふるさとの母を訪ねるツアーに通う人々を描いたという、驚きの展開の作品。母を宮本信子が演じ、そこに通う息子や娘を中井貴一、松嶋菜々子、佐々木蔵之介が演じています。ツアーなので、母と子のアドリブ合戦のようなやりとりをする俳優たちがとにかくすごいですし、その中で現代人の寂しさみたいなものに対する鋭い批評眼みたいなものも光っていました。
T:ドラマ24「40までにしたい10のこと」(テレビ東京)は男性の未婚率が年々高くなっている昨今、BLというジャンルでありながら、どこか独身男性のリアルな姿が反映されているユニークなドラマでした。上司と部下の恋愛を、コミカル度は抑えめで、ほのぼのとしたタッチで綴られていたあたりがとても魅力的だったので、終盤、ふたりの関係がちょっと重めに描かれていたのは少し残念でした。
M:「こんばんは。朝山家です。」(朝日放送テレビ)はイライラさせる天才の夫、イライラして夫にキレまくる妻、マイペースで容赦のない子どもたち。登場人物皆が怒ったり、喧嘩ばかりのままならない日常を暮らしています。ホロッとしたりスカッとしたりする展開はほぼないのですが、ドラマを通じて人間についてしみじみと考えさせられ、癖になるドラマでした。不甲斐ない夫を支え、家族や仕事の勘所を見極め、社長兼プロデューサーをこなす“シゴデキ”中村アンの毒吐きや、自閉スペクトラム症の長男・晴太を演じた嶋田鉄太、ダメ夫な賢太の小澤征悦など、役者陣の演技が圧倒的に素晴らしかったです。
K:「ちはやふる -めぐり-」(日本テレビ)は改めて競技かるたとは似ているもののない独特の世界だと実感しました。和歌という古典文学のエッセンスを学ぶ面白さ、競技を勝ち抜くための独特の戦略、団体戦における仲間との絆など、スポーツ系の高校部活とはひと味もふた味も違うジャンルの面白みを楽しめました。ストーリー展開は意表をつくものではなかったものの、最後の試合はハラハラして手に汗を握りました。映画版と地続きの物語になっていることで舞台の時間軸が広がったのも良かったです。ただ、広瀬すずなど映画版の大物キャストが勢揃いしていたにも関わらず、ドラマ版との融合がやや不十分でもったいないと感じました。
H:プロモーション段階から少し視聴者が期待していたものとのギャップが感じられたのが残念ですよね。映画版との連動を匂わせてはいたものの、視聴者からすると消化不良感がありました。今作は今作で良かっただけに、映画版とは別物として描きつつ、ラストに繋げられたらもう少し盛り上がった気がします。
T:「僕達はまだその星の校則を知らない」(関西テレビ)は学校に派遣された「スクールロイヤー」が活躍するというヒーローものではないところが、この作品の最大の魅力でした。不器用な性格の主人公(磯村勇斗)が、戸惑いながらも生徒たちと問題に向き合う姿は、全然カッコ良くないのですが、とてもリアリティがあり、清々しささえ感じます。そして、その問題が完全に解決しないところにも共感が持てます。「ひとりでしにたい」の脚本も務めた大森美香が、こちらではリアル感がありながらもファンタジックな温かさを感じさせるオリジナリティあふれる世界観を作り出しています。
Y:プレミアムドラマ「照子と瑠衣」(NHK BS)は70歳の主人公2人の、「この日があったから今生きている」と言える体験を共にした強固な関係性が清々しく羨ましくもあるストーリー。中盤以降思いもよらぬ展開が訪れ、物語が加速して見応えが増したと思います。ラスト1話は急な転調にやや驚いたものの、懐かしのオープンカーを手に入れてからの二人と長崎の高校生の人生が交差し、女性の生き方を考えるうえでの重要な視点がもたらされたと思います。劇中の音楽の力も効果的でした。
T:「しあわせな結婚」が頭一つ抜けていたように思いますが、良作が多いクールでしたね。朝ドラ「あんぱん」は「ばけばけ」に引き継がれますし、すぐに始まる次クールは久しぶりとなる、三谷幸喜が脚本を手掛けた連続ドラマもスタートします。引き続き、チェックしていきましょう。
(2025年9月22日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています